[特集]本家の雑誌「OZマガジン」の売上を超えるWebサイト「OZmall」の秘密

出版不況と言われる真っ只中に通期業績見通しを上方修正した出版社がある。雑誌「OZマガジン」やWebサイト「OZmall(オズモール)」事業を行っているスターツ出版だ。同社の業績修正のリリースには、「主力雑誌の広告受注が好調に推移」や「着実に売上を伸ばした」といった言葉が並ぶ。

Webメディアである「OZmall」は好調で、本家ともいえる雑誌「OZマガジン」の売上を越えている。

同社が12月14日に発表したプレスリリースによれば、「OZmall」は会員100万人を突破、その中でも“ちょっとした贅沢”をしたい会員向けの高級ホテル、高級レストランのディナー、カリスマ美容師のヘアカットなどの予約サービスが好調。
今回の通期業績見通しにもこの予約サービス手数料の伸びが貢献しているという。

今回は、この「OZmall」の編集長 荒武祐子氏に、なぜこの不況下に業績を伸ばせているのか?をお聞きした。

スターツ出版株式会社
オズモール推進部 編集長 荒武祐子氏

■成功要因は、Webサイト専門のチームで媒体を創り上げた事

「OZmall」は、雑誌とWebのクロスメディアで唯一成功していると言っても過言ではない。
それは何故か。
「雑誌とWebの編集部が独立していることが成功のひとつだと思います。雑誌編集部は紙面の強みを生かした媒体作りを、Web編集部はWebの強みを生かした媒体作りをしています。出版社の1媒体でWebサイト専門チームを持っているのは珍しいのではないでしょうか。」と荒武氏は言う。

1996年、Yahoo!JAPANがサービス開始した年に「OZmall」をスタート。
その頃は、Webサイトを持っている出版社の方が少なかっただろう。
出版社が雑誌のWebサイトを持つようになってからも、Webサイトの扱いは紙媒体を売るためのメディア、または紙媒体の売上を奪うメディアだった。

しかし、スターツ出版は違った。
「OZmall」スタート時からWeb専門のチームを組織、そこには本気でWebメディアを創りたいと考えるメンバーが配属されていた。
コンテンツも、当初からWebの特徴を生かしたコミュニティコンテンツと、雑誌の記事からWebに適したものを活用したコンテンツの2種類が掲載された。
「紙面編集部、IT関連会社、販売部、新入社員などいろいろなところから集められたメンバーでしたが、オズモールを成功させたい人が集まった。そして失敗してもいいからまずはチャレンジしてみようという環境があった」(荒武氏)という。

そして、ネットバブルに乗る形で2000年には「OZmall」編集部は25名にまで成長した。
読者数は10万人を超え、読者数では早くも雑誌「OZマガジン」を超えてしまう。
当時の収益はバナー広告。
どんなサイトでも広告枠を作れば飛ぶように売れる時代だった。
しかしながら、ネットバブルが崩壊。編集部は縮小を余儀なくされる。

それでも、「OZmall」は“編集力”を生かしたタイアップ記事広告でこの危機を持ちこたえる。「OL生活向上委員会」という、東京OLをターゲットにした商品を紹介するタイアップ記事広告を売り出したところ、即完売するなどの人気広告メニューとなった。ちなみに、現在までのロングヒットとなったこの企画は、昨年「東京OLのクチコミ」を盛り込んだ「OL×365日」と名称を変更しパワーアップを図り、さらに好評を博している。

■「OZmall」主力サービスとなったプレミアム予約

そして2002年末、プレミアム予約サービスを開始。
憧れのホテルが8800円という統一料金で宿泊できるこの「プレミアム予約サービス」が読者に支持され、現在まで続く人気メニューになっている。
8800円は、ターゲット読者となる首都圏のOLが毎月1回の頻度で“ちょっとした贅沢”ができる価格帯。掲載するホテルには、価格をあわせてもらうことで、徹底的に読者側に立ったメディアづくりをした。

このプレミアム予約サービスにより、「OZmall」は広告収益だけでなく、手数料による収益を持つこととなった。当時、旅行関係のサイトでは同様のアフィリエイトモデルが採用されていたが、雑誌関連のWebサイトはバナーなどの広告枠販売が当然、予約が入った際に課金されるモデルは他社にはなかった。

その後、ヘアサロン、ネイルサロンなどビューティーサロン予約をはじめ、高級レストランのディナー予約も展開。

いずれのサービスも、29歳の東京OLがそのお店に行くことをイメージし、サービス・コストパフォーマンス・実力すべてに満足ができるお店を、編集部が実際に目で見て選んでいる。

現在予約サービスは12となり、2008年の利用者数は50万人、2009年は68万人もの読者が、この予約サービスを利用した。

■女友達にお店を紹介するときと同じ感覚で、読者ときちんとしたコミュニケーション

「OZmall」からレストランを予約すると『いってらっしゃいメール』と『おかえりなさい』メールが届く。
リマインダー役を『いってらっしゃいメール』が担い、『おかえりなさいメール』はアフターフォローの役割を担う。

もし、利用者がレストランを利用した際に不都合があれば、利用者のレストランへの不満はこの『おかえりなさいメール』のやりとりによって編集部にも入ってくる。
編集部は、すぐさまそのレストランへ連絡をして事情を聞き、レストラン側の落ち度があれば改善を求める。
並行して利用者にはお詫びメールも届く。

「私たちは、女友達にお店を紹介する感覚でコンテンツを作っています。せっかく利用してくれた大切な女友達に、安心して気持ちよく使ってもらいたいから、きちんとしたコミュニケーションを心がけています」(荒武氏)

編集部は徹底した『女友達』目線に立ってサービスを行っている。

■お客様が入らないと、レストランだけでなく「OZmall」にも報酬が入らない

編集部がレストランに対してここまでの対応を迫れるのは何故か?
理由の一つは、成果報酬による課金方式だろう。
「OZmall」の予約サービスは予約が入ったときに初めて売り上げが発生する。

お客様が入らないと商売が出来ないのはレストランだけでなく、「OZmall」も読者がきちんと予約してくれてはじめて報酬が入るのである。
ネットでは当たり前のこうした考え方ではあるが、出版社の運営するWebサイトではあまり馴染みのない考え方かもしれない。
「レストラン=広告主というよりも、よりよいサービスを提供していくためのパートナーという感覚です。お互い言いづらいことも言いますよ。お客様が喜んでくれれば、レストランも媒体も価値があがる、それに伴って売り上げもあがります。」と荒武氏は言う。

■女友達の事を知りたければすぐに本人に聞く

東京OLが集まる「OZmall」ではコンテンツを企画する際、読者へのアンケートを行うことで、実際の声や“ホンネ”を拾い上げている。

25~35歳の首都圏で働く女性、未婚、親と同居。年収400万程度のほとんどを自分のために使える“可処分所得”の高い読者だけをターゲットとしている「OZmall」だからこそ、読者の生活スタイルとお財布事情を知ることは、企画をするうえで欠かせない。

具体的には、首都圏で働くOLが最もお金を使いたいと思っているのが旅行、次にファッション・化粧品、そしてグルメと続く。
逆にあまり大切ではない日々のちょっとした支出、例えば会社ランチはお弁当にしたりなど、工夫すれば削れる出費はどんどん削っているという。

また、不況でありながらも給与所得にダメージを受ける層ではないため、消費意欲も衰えていない、というのが最大の特長。

こうした傾向を正確に把握することで、コンテンツの企画から細かなコピーライティングにいたるまで、徹底した読者目線でつくりあげることができる。

■雑誌「OZマガジン」との関わり

ネットメディアとして独自の成長を遂げた「OZmall」。
同社の媒体づくりの根底にあるのは同社のクロスメディアの考え方にある。

「それぞれの媒体がそれぞれの分野できちんと読者からの支持を得て、メディアとして成功していて、初めてクロスメディアとしての威力を発揮する。足りないものを補う相互補完でも、限られた読者・広告主を食い合う競合でもない、ましてや単にネットとリアル媒体を単に組み合わせただけのクロスメディアでもない。」(荒武氏)

一方で、コンテンツに関しては相互に“使いまわす”のではなく、“使い分け”ているという。写真を使った美しいレイアウトが得意な雑誌では、読者に情緒感や物語性を伝えるようなコンテンツを、一方でWebではアンケートや金額やサービスの詳細などより“ホンネ”に近いコンテンツを掲載。
同じ特集でもメディアが違えば必要とされる情報は変わってくる。

■100万人の東京OLが動くことで成長する「OZmall」が目指すのは?

通常の媒体であれば、売上を達成するために、広告主何社に対していくら売上を立てるか?を考える。
ところが、「OZmall」はあくまで読者が動くことで自分たちに売上がもたらされる、という考え方を貫く。
あくまで「OZmall」の成長は、広告主の予算ではなく、100万人の東京OLの行動にかかっている。

今期さらなる成長を遂げるために「OZmall」は読者の消費活動に合わせたコンテンツを企画していると言う。
「今は商業施設やデパートへの行動支援コンテンツを考えています。読者は週に1回はデパートに行くことがわかっているので。それから、舞台や劇場などのエンタテインメント業界。東京OLを集めたいというニーズがある業界と組んで、読者がワクワクするようなコンテンツを発信していきたい」

“女友達(読者)”の視点に立ったコンテンツを提供し、結果として広告主に売上という結果をもたらしている同社。この忘年会シーズンにはなんと、レストランのプレミアム予約件数が昨年比300%になった、という。不況であっても、読者からの支持を受け、売上を伸ばす媒体は確実に存在している。

(杉山)