CKO西根英一の思索×考察

ヘルスケア(健康・医療・美容)をテーマに世の中の「事例/事象」を取り上げ、マーケティングコミュニケーションの視座から「戦略/戦術」に触れ、解説します。

西根 英一

第2回:“健康食品”の定義を変えるかもしれない「機能性表示食品」の勢い!

2015年の桜花の季節でした。「トクホと機能性表示食品は、もともとの価値が違うんだよ」というトクホメーカーの主張に、食品専門家が「トクホがあるのに、似たような商品が出たら、世の中、混乱するだけじゃないか」と輪をかけ、囃し立てました。強烈な逆風にさらされながら始まった食品機能性表示制度。でも、その半年後、紅葉の季節になると、風向きが変わっていることに気づきます。受理された品目は150品目、届出は400品目。いまはまだかと、大行列です。

■消費者はそもそも混乱なんてしない!

メディアは、いや~な質問の仕方をします。「機能性表示食品って、知っていますか?」
買い物客は答えます。「わからないな」
記者は続けます。「あなたの手にしている商品が、機能性表示食品なんですよ」
買い物客が言いました。「へぇ~、トクホかと思いました。最近ずいぶん増えてきたなと思っていました」
で、「取材結果からわかったことは…」とメディアがまとめます。「機能性表示食品は、知られていない」。(おめでとう。君の言う通りだ!)

でもね。生活者ニーズから発想してみましょう。トクホだろうが、機能性表示食品だろうが、消費者はもともと区別できていないのだから、「体脂肪の気になる方に!」と書かれていれば、その期待値と交換して商品を購入するだけ。つまり、消費者はそもそも混乱なんてしていません。

いま、“健康食品”の定義が大きく変わろうとしています。いわゆる健康食品をつくってきたメーカーのほとんどが、機能性表示食品を手掛けると答えています。
「健康食品≒機能性表示食品」という時代の変革期に、いままさしく私たちはいるのです。

■価値を伝えるためにマーケティングがある!

あなたの「正しいもの」(機能的価値)は、あの人の「いいもの」(情緒的価値)にならないと伝わらない。私は、よくこの話をします。
価値の伝え方には、3つあります。価値の《最大化》、価値の《差別化》、そして価値の《最適化》。

価値の《最大化》は、たくさん造って、たくさん売る方法です。マス広告の大量投下は、この手法でした。また、声が大きい人が用いる手法でもあります。かつての大物政治家は、このタイプが多かったように記憶しています。大きいことはいいことだ!の時代でした。

価値の《差別化》は、賢く作って、賢く売る方法です。市場戦略においては、セグメンテーション、ターゲティング、ポジショニングというような、いわゆるマーケティングと呼ぶ手法を用います。現在の企業活動、政治活動のほとんどは、この手法を取ります。競合に対する優位性が、何よりも魅力となります。秀でることはいいことだ!の、ものさしを持ちます。

価値の《最適化》は、最大化とか差別化が上に立とうとするタテ志向であるのに対して、最適化はヨコ志向に広がろうとします。正しいものを創って、いいものとして共有する方法です。正しいものを、いいものに!が基本姿勢です。新しいマーケティング手法として歓迎されています。

さて、お気づきでしょうか。トクホと機能性表示食品は、マーケティング的には全く異なるアプローチをしています。
「トクホ」は、価値の《差別化》を目的に生まれてきた商品です。機能性も高ければ、価格も高い。でも、それがイケてる商品価値の証しなのです。
それに対して、「機能性表示食品」は、価値の《最適化》を目指す商品です。「個人の感想であり、効能効果を示すものではありません」と平気で語るような、まやかしの健康食品を世の中から排除し、企業の社会的責任のもとに証拠となるものを消費者庁に届けておこうという「社会慈善活動」です。すごく夢想的に解釈すれば、「企業」が責任を持って予防保健・健康増進・美容増強の機能性を証明する +「社会」に予防医療の気運が根づく = 消費者の(全体的な)健康意識が高まることで医療費削減につながる、という夢のような設計図を描きます。

 

 

■ヘルスケアビジネスの1/4を占拠せよ!

ヘルスケアという領域には、Medical(医療)、Health(予防・保健)、Wellness(健康)、Beauty(美容)という4つがあり、商材としては、商品、サービス、施設の3つがあるとみることができます。つまり、ヘルスケアビジネスは、4×3=12マスのビジネスを展開することができます。

ちなみにトクホは、Health(予防・保健)という領域で、商品を提供するビジネスです。全体の1/12で展開されます。つまり、1マスだけのビジネス。

一方の機能性表示食品は、Health-Wellness-Beautyという3つの領域で、商品を提供するビジネスです。その登場とともに、全体の1/4で展開されるビジネスとなりました。
事実、健康訴求は、中年に向けた従来のトクホ型(いわゆる生活習慣病関連のメタボ予防)に加え、シニアに向けたロコモ予防、抗疲労・抗ストレス・睡眠に関するメンタルヘルス、記憶や認知といった脳機能に関するブレインヘルス、さらに肌や目の美容にまで及びます。難しい領域ではあるものの(数値が病状を示しているのか単純な機能低下なのかの判断が難しい)免疫機能や肝機能に関する健康表示も、将来期待されます。

■私の地方講演が増えている理由

私が声を掛けられ登壇するヘルスケアビジネスセミナーや講演は、主に東京と大阪で、かつ経済産業省の事業のなんらかが絡んでのものが多くあります。もちろん、いまもその傾向は変わりませんが、新たに、北海道や沖縄県や新潟県や島根県とか、いわゆる地方講演が急増しています。旅情を期待できる、うれしい出来事です。でも、その本当の理由は、機能性表示食品の登場が、地方にヘルスケアビジネスブームをつくっているからなのです。地元の生鮮品を収穫する第一次産業、加工の第二次産業、流通の第三次産業、情報構築の第四次産業が一緒になって、一気通貫した大企業並みのグループ経営を始めています。もはや、「ゆるキャラ」ブームに沸いている場合ではありません。

機能性表示食品のヘルスケアビジネス的価値は、2016年、新たなステージに向かっていくことでしょう。

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