ほんのちょっと未来の広告を考えてみる

ちょっと先に見えている広告の未来。そのための研究を行っているマイクロアド未来広告研究所がお送りする、広告テクノロジーとデータ利用の話。(全6回)

中川 斉

第6回:アドテクノロジーの次のテクノロジー~テクノロジーが変える未来のブランド体験~(後編)

(「第5回:アドテクノロジーの次のテクノロジー ~テクノロジーが変える未来のブランド体験~(前編)」の続きです。まだ前編をお読みになってない方は、前編から御覧ください)

 

出力装置としては、何と言ってもバーチャルリアリティを安価に簡単に体験できるOculus riftでしょう。みなさん、体験済みでしょうか。まだの方はすぐに体験してください。この記事をすぐに読むのをやめて見に行ってください(笑) これまでに人類が体験したことのない、、、、などというと大袈裟かもしれませんが、それくらい衝撃的です。だから説明もうまくできないんです。

 

Oculus riftで派手すぎるリアクションする人

 

Oculus riftはVR(Virtual Reality)ヘッドセットといわれるもので、コンピュータの中に作られたバーチャル空間に、ダイブできるものです。何年か前からTVやPCモニターの代わりになるヘッドマウントディスプレイと呼ばれる機器が発売されていますが、それは目の前数m先に、なんとかインチのディスプレイが現れるというものです。Oculus rift(またはSONYさんのProject Morpheusなど)はそれとはまったく異質です。ディスプレイを見るのではなく、作られた世界に“どこでもドア”で入っていく感じです。ただの3D映像ではなく、たしかに目の前にある雰囲気があるとでもいいましょうか。

 

ちなみに“バーチャル”という言葉は、日本語では“仮想”と訳されており、“架空の”とか“ニセモノ”とかそんなニュアンスがありますが、もともとの意味は、“本質的な”とか“本物ではないが本物と同等”という意味だそうです。Oculus rift内の画像だけなら、まだお世辞にもリアルとは言い難いし、現実の世界で変な機械を頭につけているだけということを理性側の脳では理解していますが、感覚的には作られた世界の方に入り込んでしまうんです。上のビデオはちょっと驚きすぎな気もしますが、気持ちはよくわかります。
この感覚は、体験するとほとんどの方が驚かれ、そしてなぜかほとんどの方が未来の話とか哲学の話をしはじめます。「現実とバーチャルの境目ってなんだろうね」とか「いっそ現実じゃなくてもよくない?」とか「映画マトリクスの世界って本当にありそう」とか「もしかして今って、、、?」とか「存在って何?」とか。Oculus riftの将来的な可能性だけでなく、未来の生活やビジネスを考え始めます。そんなきっかけを創る“機械”はなかなかないと思うんです。

 

Oculus riftもProject Morpheusも、もともとゲームや映画などのエンターテインメント用途で開発されているデバイスのようですが、ビジネス、医療その他の領域でも応用利用研究が進んでいるようです。個人的には、現実と同じ時間系だが、現実とは別の仮想空間で一定時間生活することになるとおもっています。極端に言えば、朝起きたらVRヘッドセットをつけ、ご飯食べた感じ(実際はサプリ)、会社に“ログイン”して仕事(VR世界の中で同僚との会話・会議もできる)、飲み会に“ログイン”(実際の友人もいるし、コンピューターが創ったバーチャル友人もまざっている)、ヘッドセットを脱いで就寝。こんな世界になったときを想定して、仮想空間内でのアドネットワークのコンセプトモデルを作成し、ad:tech tokyo 2014で発表しました。
参考記事:マイクロアド、仮想3D空間向け広告「MicroAd VR」コンセプトを発表

 

実はひとつひとつのテクノロジーは、前述の各種センサーもOculusも最先端なほどではないんです。数年前と今とで何が違うかというと、利用/開発環境です。前述したように、センサーを組み込む電子工作は、数千円の機材とちょっとの勉強で初心者でもできるようにデザインされています。Oculus riftも開発環境が素晴らしく、私のような素人でも週末に簡単なアプリを作ることが可能です。3Dプリンターで”現物”をつくることもできるようになりました。Kinectやleap motionのようなかなり高度なセンサーでも数万円です。コードが書ければ画面の中を自由にできるように、リアルな体験も、アイデアがあればつくれちゃう環境ができたんです。クリス・アンダーソンのメイカーズ革命そのまんまですね。

 

メイカーズ革命が我々コミュニケーション屋の世界にも訪れてきているということでしょうか、カンヌライオンズでも “電子工作的なモノ”でリアルな体験を伴うキャンペーンが年々増えてきています。

 

Pay per laugh 笑顔を検知して、お笑い劇場の支払いシステムにしたもの

 

The Protection Ad 子供にBluetoothチップ入りのリストバンドをつけて、遠くに行かないようにした

 

Points 次世代方向案内板

 

今年のカンヌでは、受賞したキャンペーンだけでなく、セミナーでも今後のコミュニケーション施策を変えていくような、センシング技術、デバイス、それらを使った調査や応用事例などがすでに発表されていました。地味だったのでギョーカイ界隈ではあまり話題になりませんでしたが、個人的には非常にワクワクしていました。Saatchi & Saatchiさんのセミナーではオーディエンスに生体センサーが配られリアルタイムに聴衆の反応を可視化していました。うまく動いているのか正直よくわかりませんでしたが。

 

来年は間違いなく生体センサーを使ったキャンペーンやOculus riftをつかったイベントなどが受賞作にあがってくると思います。

 

網膜照射ディスプレイとか、空間投影ディスプレイなどが実用化段階にきているそうです。またVR技術の最先端では“触覚”をどう再現するかの研究が進んできているそうです。某ネコ型ロボットの世界が、なんだか急に近づいてしまった感じですね。タイムマシンやどこでもドアがなくても、本質的な擬似体験はすでに可能です。直接脳内をスキャンしたインサイトを使って、リアルタイムにバーチャル(=本質的な)ブランド体験なんて、やや飛びすぎか もしれませんが、未来の広告は そんな広告なんだと思います。

 

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