リサーチで顧客の声を聴け!課題把握で売上をあげるリサーチのツボ!

1968年の創業以来の豊富な実績と、最新手法をあわせ持つジャパン・マーケティングエージェンシー。東京オフィスはトレンドの発信地かつ、新興企業の集まる渋谷に位置し、常にマーケティングの最前線を肌で感じています。これまでの多数のマーケティング実務を通じて得た、マーケティング・リサーチのツボをご紹介します。 

牛堂 雅文

第1回「コツは仮説作りにあり」複数の仮説で問題点を明確化

●「Consumer is Boss」(お客様はボス)

課題を把握し、商品・サービスの改善で売り上げを上げるための情報は『顧客』が持っています。「Consumer is Boss」(お客様はボス)はP&G社で徹底されている考え方であり、「ファブリーズ」に代表される徹底的なマーケティング・リサーチ実施による成功例は、まさに好事例と言えます。

その『顧客の声を聴く』ため、多くのBtoC企業ではマーケティング・リサーチが実施されていますが、マーケティング・リサーチを実施したからといって、必ずしも結果(売上)につながるとは言えません。

「そんな調査はやめてしまえ!」という声も聞こえてきそうですが、そもそも結果が出やすいマーケティング・リサーチと、結果が出にくいマーケティング・リサーチというのは何が異なるのでしょうか。

まず、認知率、保有率等を把握し、誰がターゲットになるのかを把握するような、「市場実態把握」系のマーケティング・リサーチは『基礎情報』として重要ですが、これですぐに売り上げが上がるものではなく、「広い目で市場を見据えるリサーチ」となります。

他にも気付きを得る「行動観察調査」等も非常に有意義であり、先のP&G社でも積極的に活用されているそうですが、これは商品・サービス開発の初期段階や課題の発見に用いるケースが多く、直接結果に役立ったかどうか見えにくいのが惜しまれます。

それに対して、『商品・サービスの課題を明確化するマーケティング・リサーチ』は、その後の改善アクションがしやすく、結果(売上)に近いリサーチとなります。

『商品・サービスの課題を明確にするリサーチ』もたくさん実施されていますが、だからと言って全てが結果(売上)につながっているわけではありません。それはなぜでしょうか。

1つ目は、改善点がわかっても直せないケースです。
薬事法など法令上の問題、特許の問題、スケジュール上の問題、コスト上の問題、親会社や自社上位ラインアップとの競合(カニバリ)の問題など、様々な障害が立ちはだかります。ただ、顧客の言った通りに解決するだけが答えではありませんので、別の手段による解決も検討してください。(※この点は次回以降にゆずり、今回詳しく述べません。)

2つ目に強みと弱みが表裏一体になっているケースです。
アップル社の製品によく見られますが、シンプルで直感的なユーザーインターフェースは最大のメリットでもあり、一方で専用ボタンがないので「特定の用途によく使う機能がすぐに使えない」といったデメリットも発生しやすい「表裏一体」の関係にあります。こうなると改善点が分かってもうかつには手を出せません。短期的には改善に着手せず、対応話法的に乗り切る方が正解と言えそうです。

3つ目が今回お伝えしたい点です。「仮説の作りこみに問題がある」ケースです。

●1つか2つの仮説では少なすぎる!

通常、マーケティング・リサーチを実施する際には、営業からのフィードバックや、インターネットの口コミなどの情報をもとに、何らかの仮説を持って挑みます。

「そもそも認知度が低すぎて商品・サービスが知られていない」
「パッケージが店頭で目立たない」
「競合との差別化ポイントが分かりにくい」
「ボトルの形が悪く持ちにくい」
「味が甘すぎる」
「CMなどコミュニケーションのイメージと、製品のイメージがずれている」

上記のような仮説をもとに調査が実施されます。ただ、こういった仮説を1つか2つしか持たずに調査に挑んでしまうケースが多く見られます。ここに大きな問題が潜んでいます。

例えば、「味に問題がある」と分かり、「甘すぎる」というように問題がクリアになったとして、本当に他に問題はないのでしょうか?「味覚調査を繰り返して製品は良くなったのに、売り上げは改善しない」というケースも見られます。これは仮説の作りこみが十分でなかったことが原因といえます。

「認知度」「店頭でのインパクト」「商品特徴の伝達」「競合との関係性」「製品」「コミュニケーション」「顧客ニーズとのズレの有無」、など至る所に問題点は潜んでいるのに、最初から「製品」にあたる味覚だけに仮説を狭めてしまっています。

仮説作りでは視野を広め、「問題点は必ず複数ある」という発想を持っていないと、見落としが発生します。もちろん、これまでの知見から「最大のネックはここだろう」…という「あたり」が付くこともありそれほど大きくは外れないものですが、通常、最大のネック以外にも問題点が隠れているものです。

また、仮に「パッケージ」に問題があったとしても、「ロゴ」「レイアウト」「色づかい」「写真」「コピー」「大きさ・形状」「素材感」など問題点は色々なところに潜んでいると考えてください。

そして、その製品だけではなく競合と比べることで問題点が明確になるケースも多いので、競合と比較して聞く方法も有効です。各社しのぎを削った結果、自社製品のどの部分も大して悪くはないが、競合に対しては劣っているケースもまま見られます。

仮説作りでは、視野を広く、様々な視点で考えることがポイントとなります。仮説が1つか2つであった場合、他にもあるはずだ…と疑う癖をつけてください。1つや2つの仮説に固執しすぎると、他の大事な点を見落としてしまいがちです。

そして、多くの仮説を作った場合、例えそれが「外れ仮説」となっても、「製品」の問題は10%、「パッケージ」の問題点は35%、「コミュニケーション」の問題は20%、などと明確化できれば、優先順位を明らかにした方針が取れます。仮説は外れても意味があります

●複数案の解決の作りこみ

問題点把握の次のステップとして、「解決案の作りこみ」が重要となります。(ここは一回のリサーチに収まりきらず、別のリサーチになってしまうかもしれません。)

例えば、「使いやすく、高性能」といった商品だった場合、「使いやすさを強調する案(A案)」か、「高性能を強調する案(B案)」のどちらでいくか、という方向性を明確にする『複数の解決案』を作成します。

また「A案の使いやすさ」を言うにしても、さらに「高齢の女性が、「私にもできた」という共感を狙う案(A-1案)」と、「95%のユーザーが使いやすいと言っています!とデータで押す案(A-2案)」など『複数の解決案』で方向性をより明確にしたいところです。

あまり抽象的すぎない、「具体的アクションにつながるような解決案」とすることができれば、調査で得られる結果もよりリアルになります。
結果のリアルさを追求し、パッケージ等の評価では実際の店舗を模した場所でパッケージの評価を行うケースも見られます。

『複数、かつ方向性がはっきりした、具体的な解決案』で調査を実施することで、結果(売上)につながりやすくなります。

ただ、いくつか注意点もあります。
作成者の特定案に対する思い入れが強い場合、「A案だけ完成度が高く、B案はラフ案どまりで完成度が低いためまともに評価されない」という本末転倒なこともありえます。完成度がそろわないと結果も正しいものにはなりません。

また、A案、B案、C案、D案と4つ作ったのはいいとして、A案とB案は方向性が明確なのに、C案とD案がわずかな違いしかなく、「要素の分離・分解」が不十分になってしまうと結果もクリアーになりません。

これも作成者にとっては大きな違いだと思っていても実はよく似ている、悩んで作成しているうちに方向性がぐちゃぐちゃに混じってしまい、各案の方向性が不明確になるといったケースがあるようですので、調査で検証する前に作成者以外の第三者的な意見が必要となります。

「20案のデザインを作ったから全部見せたい」といった「案の作りすぎ」という現象もあります。
もちろん、大まかに傾向を把握する分には20案でも構いませんが、沢山の案を前に対象者の注意力が低下してしまいます。そこから具体的な解決策を導くのは危険性が高く、方向性を定め、それに沿った案に減らすなどして明確な答えを得られるようにしてください。

●誰の意見を聞くのか?

おおよその注意事項はご理解いただけたのではないかと思いますが、他にも注意点があります。「誰の意見を聞くか?」という対象者条件を間違えると取り返しがつきません。

対象者条件は、「ある製品の現ユーザー」「年齢は何歳から何歳まで」「○○意識のある方」などの諸条件で規定します。商品カテゴリーによっても異なりますが、「ヘビーユーザーとライトユーザーでは大きく意見が異なる」、「初心者とベテランで意見が違う」、「ユーザー登録するような信者的なファンと一般的なユーザーで温度差が大きい」など注意事項があります。

調査結果に違和感がある場合、マーケティング・リサーチでの聞き方や仮説ではなく、『誰に聞くか?』の部分に問題があるかもしれません。

対象者条件は、調査目的に大きく関わる部分です。新規ユーザーを取りたい(アクイジョン)のか、ユーザーにリピート購入してもらいたい(リテンション)のか、両方狙っていくのか?その人たちはどういう属性を持つ人なのか?といった『ターゲット層のイメージを明確化する』ことが重要になります。

ターゲット層に曖昧さがある場合、自社にある顧客データを再度分析したり、結果からはやや遠いと言っていた「市場を俯瞰し、基礎情報を収集するマーケティング・リサーチ」で仮説の精度を上げる方法もご検討ください。遠回りに見えることが案外近道というケースもあります。

●総じて

問題点の把握にも「仮説」、解決案作成にも「仮説」、そもそものターゲット層を決めるにも「仮説」が必要となります。この「仮説作成力を磨く」ことでマーケティング・リサーチで得られたデータも、より結果につながるものに変ります。

腰を据えてリサーチを実施する場合、我々マーケティング・リサーチャーは調査の背景をお聞きし、仮説作りを丹念に行い、アンケート(調査票)作成に数か月かけることもあります。
毎回そこまで実施することは現実的ではないかもしれませんが、ぜひマーケティング・リサーチ実施前の仮説構築に多くの力をそそいでください。きっと結果が変わってくるはずです。

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