オンナゴコロをつかむ4つの“ハブ”~進化する女性マーケティング
「女性の気持ちがわからない・・・」
「彼女たちの生態がわからない・・・」
私が企業の方からご依頼頂くのはいつも、「リアルな女性の実態に基づいたコミュニケーションプランニング」です。
デバイスやコミュニケーションツールが多様化した今の時代、従来のような属性ごとの分析だけでは女性のリアルな実態を的確に捉えることはできません。
これからの女性マーケティングでは、利用しているSNS・メディアをそれぞれ彼女たちの活動拠点=ハブと定義し、ハブごとのインサイト分析・行動分析をすることが必要になると私は考えています。
このコラムでは4つのハブについて分析することで、女性たちのリアルな実態に迫ります。
第4回:「マイクロトレンド」で満足?トレンドを一過性にしないための、オンナゴゴロの掴み方
■「マイクロトレンド」と「マストレンド」のハブ的要素とは
インスタグラムをはじめとするSNSや新しいWEBメディア、アプリケーションなどを使いこなす女性が増え、これからはもはや日常生活に欠かせない存在と感じている人も多いようです。デジタル領域はその新しさゆえに注目を集めがちですが、私は今あらためて、女性マーケティングにおける「TVのチカラ」に注目しています。
昨年に大流行し、専門店まで続出した「萌え断」。断面が豪華で美味しそうなビジュアル系サンドイッチを指す言葉ですが、注目を集めたきっかけは、あるインスタグラマーの投稿にありました。自作のサンドイッチの断面をインスタグラムで発信し続けたことで、そのビジュアルの美しさとインパクトがインスタグラム内で話題となり、盛り上がったことが発端だったのです。
当初は、インスタグラムの中でもある特定層の中でのトレンド=「マイクロトレンド」でした。しかしそれが、他のWEBメディアでも取り上げられ、流行に敏感な女性たちが真似するようになったことで、今度はTVが取り上げるようになりました。そうしていわゆるフォロワー層も含めた一大トレンド=「マストレンド」となり、自宅で真似をする女性がさらに増えていきました。この「萌え断」人気によって、サンドイッチ用のパンなどの食品や、ラップやお弁当用品などの商品が発売され、食品以外の業界にも影響が広がっていきました。
特に食の領域において、昨今のトレンドはインスタグラムやキュレーションメディアから火がつくことが多いですが、実はデジタル領域の盛り上がりだけで「マストレンド」が生まれた事例はほとんどありません。特にフォロワー層の女性たちは、インスタグラムを見てすぐに真似ることはせず、近しい友人ら「周りがみんなやっている」という状況になって初めてアクションを起こします。そのため、「TVに取り上げられる」ことは、この「みんなやっている」という空気感の醸成に役立ちます。さらに「TVでやっていた○○」というお墨付きによる安心感が加わることで、「マイクロトレンド」を「マストレンド」へと昇華させる働きがあるのです。
「マスメディア」の代表格であるTVでは、ある特定の層ではなく、できるだけ広い層をターゲットとした番組制作がなされます。一部の層で発生した「マイクロトレンド」を、幅広い層に分かりやすく魅力的にうつるように翻訳してくれる。誰でも簡単に、すぐに真似できるように解説してくれる。そういった使命と機能があるからこそ、TVには「マストレンド」を生み出す力があるのです。
SNSやWEBメディアの普及により、瞬発的なトレンドが生まれやすくなった一方で、それが「マイクロトレンド」のまま早期に消えやすくなっているのも事実であり、そのことが企業のマーケティング活動における大きな課題となっています。だからこそ「マイクロトレンド」を生み出せるTVの存在を意識した上で、コミュニケーション設計・プロモーション設計を行う必要性が増しているのです。
■SNSにおける「見る専クラスタ」の存在
SNSの存在感が増すにつれ、積極的に情報発信を行う「インフルエンサー」が何かと注目を集めていますが、女性向けマーケティング活動を行う上では、インフルエンサーが発信した情報を受け取る「フォロワー層」の存在も意識しなくてはなりません。
SNSは利用しているものの、積極的に発信はせず、情報収集ツールとして活用している。発信するよりも、他の人の投稿を見ている方が好き。トレンダーズではこうした層を「SNS見る専クラスタ」と名付けました。
実名制であるFacebookでは特に「見る専」の比率が高く、ユーザーの8割近くを占めています。また、先ほど「萌え断」の例でご紹介したように、「インスタ映え」商品が個人消費を押し上げているといわれるほど人気のインスタグラムでも、半数以上は「見る専」ユーザーなのです。「SNS見る専クラスタ」の女性たちに共通しているのは、「トレンドは押さえておきたいが、冒険や失敗はしたくない」「トレンドに飛びつくのではなく、慎重に検討してから決めたい」という堅実性です。
「今流行っている」だけでは動かない、自らは発信しないサイレントな存在でありながら多数を占めるこの層にリーチするためには、情報を単なるトレンドとして伝えるだけでは足りません。具体的な取り入れ方、アレンジの仕方などを丁寧に伝えつつ、「時短」「手軽」「アレンジ豊富」といったメリットを明確に提示して“便利情報”とし、さらにそのトレンドに対しての著名人やインフルエンサーの反応や評価も含めて届ける。
ここまでを丁寧にコミュニケーションしてはじめて、「見る専クラスタ」の女性たちがアクションを起こし、「マイクロトレンド」は「マストレンド」へと変化していくのです。
■SNSとTVの上手な掛け合わせ
TVが発信した「マストレンド」へのアクションを女性に促すためには、実は再度SNSの存在が必要になってきます。最近では、スマホを触りながらTVを視るという「ながら視聴」が当たり前の行為になっており、TVを視ながらSNSで他者とコミュニケーションをしたり検索をしたりする女性が増えています。だからこそ、TVで知った情報を誰かにSNS上で伝えたくなる、「一緒に行こう」「やってみよう」と誘いたくなるような情報発信を心がけることが重要です。
例えば、イベントやお店の情報であれば、「ここ話題なんだって、今度行ってみようよ!」と友人や家族を誘いやすい、分かりやすいコンテンツが必要ですし、商品やサービスであれば、「これ流行ってるんだって! 今度、誕生日会がある時に持っていこうかな~」と話のネタにできるようなエッセンスが求められます。
また、インターネットやSNSで検索した際に的確な情報に出会えるよう、事前にWEBメディアやSNSに詳細情報や口コミが一定量掲載されていることも非常に重要です。アクションにつながりやすい情報があることで、「マイクロトレンド」から「マストレンド」へと移行しやすく、さらにはトレンドを超えて息の長い「定番」となる可能性にもつながります。
女性の“教えたがり”は普遍的なインサイトです。そこで、主婦に対しては家族が喜ぶような情報を、学生に対しては学校の友達と一緒に楽しめるような情報を届けることで、身近な人に“教えて”一緒に楽しんでもらう。こうしたコンテンツに仕立ててアプローチしていくことが、オンナゴコロを掴むポイントです。
トレンドを「マイクロトレンド」に終わらせず「マストレンド」化し、さらに「定番」を狙う。そのためには女性のインサイトにしっかり向きあった丁寧なコミュニケーション設計と、SNSとTVを組み合わせた緻密な戦略が必要となるのです。