マーケター・インサイト~デジタル時代の広告人として必要なこと~
広告人として成長するために、「学ぶ」ということを大切にしています。書籍などの座学だけでなく、あらゆる人との対話からも学ぶことは可能であり、意識を向けることで理解はさらに深まると感じています。
本コラムでは、この学ぶという行為を対談形式で実施したいと思います。毎回、学ぶことを貪欲に実践しているマーケターをお呼びし、彼らの思考のプロセスに触れることで自身が実践してきた理解や解釈に肉づけしていければと思います。
マーケターを広告に携わっている方に限定せずに、あらゆるジャンルの方と刺激的な話を展開します。
第2回:メーカー発想のデジタルマーケティングに迫る(後篇)
今回のゲストは前回に引き続き、株式会社マンダムの香川さんです。
「メーカー発想のデジタルマーケティングに迫る」というタイトルですが、デジタルというテーマから少し離れて、クリエイティブについてお話しさせていただきました。どのような視点で、クリエイティブを捉え成果を出してきたのかに迫りたいと思います。
| そもそも論に立ち返る
山口「前回に引き続き、宜しくお願いいたします。本日はクリエイティブについてお聞かせください。僕がマンダムさんで真っ先に思いつくのが、フットボールアワーの岩尾さんが、木村拓哉さんへ変わる洗顔のCMです。」
香川「あのCMは僕が関わったものの中で、非常に話題化した作品のひとつで、市場に大きなインパクトを残せたと思います。アジア各国でもオンエアされ、同じように評判が良かったです。」
山口「とてもインパクトがありました。」
香川「ありがとうございます。当時、このカテゴリーにおいて大きく売上シェアを落としていましたが、目標を大きく上回ることができました。あらゆる要素が起因して売上アップにつながったと思いますが、CMの効果も高かったと自負しています。」
山口「このCM以外にも、マンダムさんはユニークなものが多いですね。」
香川「そうですね。会社としてもクリエイティブは力をいれています。私自身は個人で音楽や映像をつくっていますのでクリエイティブへの思いは強い方だと思います。生活者に直接『触れる部分』なので、こだわりを持つことはとても大切なことと思います。ただ、同じくらい大事なのは、クリエイティブの前の上位概念を整理することですね。」
山口「それは、課題設定や戦略策定ということですか?」
香川「そうですね。そもそも何のためにつくっているのか?常にこれを忘れないことが大切です。かたちになって見えてくると目的と手段を混同しがちです。
それと、社内外のひととつくっていくわけですから言葉を誤解のないように使わないといけません。目的と目標、問題と課題、戦略と戦術、どのレベルの話をしているのか?それらの言葉の定義に誤解がないかを注意しないといけませんね。」
山口「それはありますね。打ち合わせしていても、あまり意識せずに利用しているなと思うことあります。それ、課題ではなく、問題点だなと。自分自身でも気をつけるようにしています。」
香川「山口さんは大丈夫ですよ(笑)」
山口「リップサービス恐縮です…(笑)」
香川「チームの中でも、そもそも目的って何なの?とか、本当にそれ大事なの?とか、投げかけてベクトルが整理されていくことが強いクリエイティブにつながっていくと思います。」
| 大胆に発想し、緻密に創り、いいかげんに選ぶ
山口「クリエイティブ制作について心がけていることがあったら教えてください。」
香川「心がけていることとして、3つございます。1つ目が、発想段階ではできるだけ振り幅を広げて大胆に発想すること。2つ目が、制作過程ではさまざまな計算を含めて緻密に進めること。そして3つ目が、いくつかできた作品を選ぶときにはいいかげんに選ぶことです。」
山口「最初の2つは理解できるのですが、いいかげんに選ぶってどういうことですか?(笑)」
香川「その作品が生活者に触れる場面を想定して選ぶ、ということでしょうか。例えばTVCMであれば、実際には家でリラックスした状態でせっかく楽しんで見ていた番組の途中で割って入ってくる邪魔者なんです。そうした状態で流したときにこの作品の一体何が残るのか?商品のことを真面目に語れば社内のひとは納得するかもしれませんが、テレビではそんなもの誰も見たくないわけです。そういう意味で同じような、”いいかげんな”気分で接することがとても大事だと思います。」
山口「普段通りに生活者の意識を持ちこむということですね。大変参考になります。」
| 強いクリエイティブとは、「削る勇気を持つこと」
山口「他に心がけていることはありますか?」
香川「そうですね、TVCMの場合特にそうなんですが、CMにいろんなものを背負わせてしまいがちです。」
山口「と言いますと?」
香川「あれもこれも言いたい、15秒にたくさん詰め込んでしまいたくなるんですね。特にクライアント社内でよくあることだと思います。」
山口「なるほど、確かにそう思います。それはなぜなんでしょうか?」
香川「単純にTVCMにはお金がかかるからだと思います。せっかくお金がかかるんだからと言って詰め込んでしまう。でも詰め込みすぎたものって結局、何を言っているか伝わらず、商品はおろかそのCMすら残らない。むしろお金の無駄遣いです。」
山口「そうなると本末転倒ですね。」
香川「クリエイティブには、削る勇気が必要です。クリエイティブの作業工程の中で、いろんなアイディアが出てきても、しっかりと判断基準を持って削ることが重要です。アイディアを出すためには、思考を一旦拡げますが、そもそもこの表現は何が目的かを問うことで、余分なものは削れます。広告を判断する際に何を伝えるか?よりも重要なのは何が伝わるか?です。」
| クリエイティブはトレーニングで強化される
山口「削る勇気を持つ、いい言葉ですね。とはいえ、なかなか難しいことだと思います。
まとめると、クリエイティブはアイディアを獲得するために一旦拡げて、収束する。相反する作業工程を経たうえで、そもそも論に戻る。結局のところ、一直線でアイディアは生まれないということなんでしょうね。」
香川「そう思います。クリエイティビティを持つためには、トレーニングを繰り返すしかない。生み出す訓練をし続けること、そして失敗を繰り返し、なぜ失敗したかの要因まで掘り下げることが新たな気づきを得ることができると思います。」
山口「地道にやっていくしかないということですね。」
香川「はい。もうひとつ、大切にしていることがあります。それは、人と会うことです。あらゆる人に会うことはクリエイティビティを刺激することにつながると思います。自分自身にない視点など気づきが多いですし。そういう意味で言うと、山口さんは普段から色んな人と会っていますから、大丈夫ですよ。私のクリエイティブの視点も、経験から行き着いたものですし、人それぞれの視点をどう編集するかですね。結局、意識することが大切ではないでしょうか。」
山口「ありがとうございます。とても参考になりました。香川さんの視点を巧く取り組むべく、編集し、自分自身のクリエイティビティ向上につなげていきます。あらゆる質問に答えていただき、ありがとうございました。」
香川「こちらこそ、楽しかったです。同じ九州人括りで、頑張っていきましょう。」