マーケター・インサイト~デジタル時代の広告人として必要なこと~
広告人として成長するために、「学ぶ」ということを大切にしています。書籍などの座学だけでなく、あらゆる人との対話からも学ぶことは可能であり、意識を向けることで理解はさらに深まると感じています。
本コラムでは、この学ぶという行為を対談形式で実施したいと思います。毎回、学ぶことを貪欲に実践しているマーケターをお呼びし、彼らの思考のプロセスに触れることで自身が実践してきた理解や解釈に肉づけしていければと思います。
マーケターを広告に携わっている方に限定せずに、あらゆるジャンルの方と刺激的な話を展開します。
第1回:メーカー発想のデジタルマーケティングに迫る(前篇)
今回のコラムでは、考えていることをつらつら並べることよりも、自分が考えていることが他者にとってどう理解・評価されるのかを検証する場にしたいなと思いました。そのほうが、読んでいただける方にとって、面白いはずだし、自分にとってためになるのではないかと。よって、対談形式のコラムにしながら自分が培ってきた知識や経験を基に、お話したい方と自由に話す場にしたいと思います。
第1回目のゲストは、株式会社マンダムの香川亥一郎さんです。経歴として、マンダムにて品質管理~営業~販促~宣伝~海外事業~Eビジネスと歴任されて、現在は海外事業のマーケティングに従事しながら国内・宣伝のクリエイティブも兼任されている理系出身のマーケターです。仕事での付き合いは全くないですが、日本マーケティング協会で知り合い、私的なお付き合いをいただいております。そんな香川さんと「デジタル時代のマーケティング」という幅広いテーマで楽しくお話させていただきました。
山口「まさか、こんな形で対談させていただくとは・・・・・・。感慨深いものはありますが、感傷に浸らずに次々と、質問を浴びせていきますのでよろしくお願いします(笑)。」
香川「よろしくお願いします。」
山口「香川さんにとって、デジタルマーケティングの定義を教えてください。メーカーにとっても、マーケティングのデジタル化って求められていますよね?ちなみに、私はデジタルマーケティングの定義を『生活者理解』としています。そこに至った経緯は、追々お話するとして。いかがでしょうか?」
香川「なるほど、なかなかメーカー発想ですね。私が考えるデジタルマーケティングの定義は、『生活者行動の変化に対応する』ということです。正直言うと、デジタルという領域に携わっていたのですが、あまり好きな領域ではありませんでした。」
山口「それはどうしてですか?むしろ、面白いデジタルコンテンツを多数手がけられているイメージが強かったです。楽しみながら、仕事されているとばかり。」
香川「楽しそうに仕事しているように見せるのが僕のスタンスですから(笑)。昔、バイトの社長に言われたのが、制服を汚して仕事をするといかにも仕事していますとアピールしているようでカッコ悪い!と。ま、それはいいとして、デジタルは手間がかかる割に売上への貢献があまり目に見えない。マス広告は世に浸透していてある程度、勝ちパターンとレスポンスもある。だから、最初はデジタル領域の価値をなかなか見出せなかった。」
山口「それが、捉え方を変えて一変したのですか?」
香川「実は、インターネットの黎明期にあらゆるコンテンツやキャンペーンを手掛けました。時代が早すぎたのか、思うように売りにつながらずに、価値を見出せなかった。現在では周知のとおりデジタル強化ムードになっていますが、むしろ僕は前述の理由でそこまでデジタルに力を傾けることには懐疑的でした。ところが、チャネルのひとつとして捉えることで理解が進んだ。おそらくテレビという媒体が出現したときも生活者の情報接触が大きく変わったことでしょう。流通においてはコンビニエンスストアが出現したときに生活者の購買行動や生活までが大きく変わった。それが今、違う形で起こっている。そう理解することでデジタルのことを捉えなおしたということです。」
山口「チャネルとして捉えることで理解が進んだということですね?」
香川「コミュニケーションにおいても販売においても新しいチャネルが生活者に受け入れられればそれに応じて生活者の行動自体が変化する。かつて、GMSやコンビニエンスストア、ドラッグストアなどが出現した際にもメーカーは対応してきました。」
山口「つまりは、時代の要請に応じたというとこですね。その根底にあるのは、生活者が求めていることに応じるという、生活者理解の精神があるように思います。ちょっと、強引ですか(笑)?」
香川「いえ、まったく強引ではありません(笑)。もっと言うと生活者の変化に応じるということです。だからデジタルをひとつのメディアと捉えてマス発想で考えてもダメで、新たな行動と捉えるべきです。山口さんが冒頭仰っていたデジタルマーケティングの定義ですが、そこに至った経緯をお聞かせください。覚えていますか(笑)?」
山口「ひろっていただき、ありがとうございます(笑)。実は、香川さんと理由は異なりますが、僕も当初デジタルマーケティングってあまり興味を持てませんでした。その理由として、評価されているデジタル施策に、一生活者として遭遇することが皆無であったからというものです。この業界にいるということは、多少なりともリテラシーは高いはず(笑)。それなのに、広告業界で評価の高い施策にまったく接することがない。ターゲットにもかかわらず。その当時、もしかしたら、高度な非ターゲティングで僕に広告しないという策略があるのかとすら、考えていました(笑)。」
香川「その気持ち、よくわかります。」
山口「それが、2013年ぐらいでしょうか。ビッグデータという言葉に向き合うようになって、この領域を理解しないとならないなと考えるようになりました。大量に生成される多種多様なデータは生活者による行動の結果、すなわち足跡です。その足跡は、なぜ行動に至ったか理由までは示してくれません。しかしながら、この声なき足跡を、仮説を持ち明らかにしていくことは、潜在的な生活者の思いを理解することと同義であると考えたためです。」
香川「なるほど。だから、生活者理解なのですね。ちなみに、ビッグデータと向き合う境遇にあったのですか?」
山口「はい。ビッグデータはマネタイズできるのかというお題を頂きました(笑)。その中で、自然と軸足がデジタルシフトしていった感じですね。行動の結果であるデータから何が読み解かれるかということに注力していた時期ですね。この入り口があったからこそ、デジタルマーケティングに対する理解が深まったという気がしています。」
香川「それは興味深いですね。もっと詳しく教えてください。」
山口「最近も感じることなのですが、よく議論されるデジタルマーケティングって、webマーケティングとニアリーイコールな気がします。よって、web起点なのですよね。乱暴に言えば、web完結型。僕が捉えるデジタルマーケティングはweb起点ではないです。むしろ、ニュートラルで、webのみならず、店頭やマスなどから取れるデータを利活用することで生活者の理解をしていくものと捉えています。」
香川「つまりインターネットだけではなく、人々の行動が残すデータすべてをデジタルと捉えるということですね。このような多様な考え方を取り入れながら、仮説検証を繰り返していくことが大切ですね。いい刺激になりました。」
山口「すみません。進行役のつもりが、途中から逆に仕切りをしていただいて。恐縮です。こちらも、聞きたいことは山のようにありまして。香川さんにとってのクリエイティブについてお聞かせください。僕はクリエイティビティが低いので参考にしたいです。」
~後篇に続く~