その広告、本当に効いている?「売り」につながる「広告効果測定」「ROI分析」とは
広告効果測定の専門機関として25年目を迎える株式会社テムズ。
広告主でも広告代理店でもない「第三者機関」として、客観的な視点だからこそできる「次の打ち手につながる広告効果測定」の考え方と手法を紹介します。
本コラムを担当する株式会社テムズ代表取締役鷹野義昭氏の1000素材を超えるCMキャンペーン分析の知見とノウハウは、広告の費用対効果の「見える化」にお悩みの担当者にとって必見の内容です。
第3回:クロスメディアにおける「真の広告効果」を見極めるには
前回、前々回と、広告効果測定という観点から、テレビCMとWEB広告の性質の違いについて考えてみました。
端的に言うと、WEB広告の効果は見えやすく、テレビCMは見えにくい。
では、実際にどういった考え方や手法で、この見えにくいテレビCMの効果を公平に評価していくのでしょうか。
■「コンバージョン」と「アトリビューション」。 なぜアンケート調査が必要か?
前回のおさらいを兼ねてもう一度確認しましょう。
「コンバージョン」とは、実売といったアクションへの「転換」などを指すもので、例えば、WEB広告の接触率20%に対し、申し込み率が1%あれば、コンバージョン係数は0.05となります。
一方、「アトリビューション」とは、アクションなどに至ったWEB広告といった施策の「貢献度」を意味します。
近年、ビッグデータが全盛の時代ともいえますが、コンバージョンが明確に取りやすいWEB系の媒体はそうした実データからのアプローチでも十分でしょう。アトリビューションも単体の媒体だけで見るならば、コンバージョン係数と単位は異なりますがほぼ同義になります。
■商品の購入行動までの距離(イメージ)
しかしながら、最終的な「売上」ではなく、中間指標となる「認知」「好意」「興味」といった心理形成をKPI(Key Performance Indicator)としたアトリビューションを捉えるためにはどうしたら良いのでしょうか。
つまり、ターゲットの「ココロの内を数値化する」必要が出てきます。最新の脳科学で脳波を使った測定の方法もあるでしょう。しかしながら、「その商品を知っていたかどうか」といった明確な数値を得ることはまだまだ難しいのが現状です。
つまり、「認知」「好意」「興味」といった心理形成を一義的な目的としたテレビCMなどでは、ターゲットの態度変容を明確化するために従来型の「アンケート調査」が不可欠となるのです。
■「KPI」の設定。 「ファネル」そして「ボトルネック」とは
まず、考えなくてはいけないことは、「その広告は何を達成するためか」ということです。
テレビCMでも、その目的はいろいろと分かれます。「認知」の拡大、「ブランド好意イメージ」の醸成、「商品内容理解」の向上などなど、こうした中間指標におけるKPIを狙ったものということになります。
もちろん、これらの目的が複合的になっている場合が多いですが、主たるKPIが明確になっていなければ、優れたマーケティング戦略とは言えないでしょう。
さて、では、その狙うべきKPIをどうやって見つけていくのでしょうか。
それが図に示したような「パーチェス・ファネル」で判断されます。「ファネル」とは「漏斗」を意味します。
平たく言うと「知らない商品には興味を抱かない」「興味を抱かない商品は買わない」といった段階的なフローのなかで、上層から各層のボリューム(パイ)が小さくなっていき、最終的な実売へとたどり着くという考え方です。
もちろん、なかには商品を事前に知らなくても、「店頭でパッケージを見て衝動買い!」なんてこともあるでしょうが、それはレアケースとして、マス商品の基本モデルを捉えていきましょう。
さて「このファネル図から何がわかるか?」ということですが、端的に言って、その商品の「弱点」が見えてくることです。
中間指標の各段階を「変換率」として捉えていきます。例えば、認知率80%に対し、商品理解が60%であれば、変換率は60÷80で75%となります。
この変換率の低いゾーンこそが、「ボトルネック」と捉えられ、コミュニケーション戦略として手を打たなければならないポイントとなるのです。
■ファネル分析(参考事例)
例えば、商品認知~商品理解がボトルネックとなっていれば、テレビCMの施策では内容理解型のクリエイティブの採用となるでしょうし、強化する媒体も雑誌といった紙媒体やホームページの誘因といったことになるでしょう。
そしてこのファネル図も、実データであるビックデータが何億ケースあろうとも、アンケート調査データなくしては構築することが難しいのです。
■ON・OFF(1・0)データの危うさを解消するために
では、一般的に人の心理はどのような状況で購買に至るのでしょうか。
みなさんが、お店で商品の前に立ったことを想像してみてください。「あれテレビCMで見たぞ」「SNSでも話題になっていたな」「今日は特売してる」などなど、様々なことを考えるでしょう。
でもそれは、決して、同じウエイトの影響ではないと思います。購買に至った心の中のシェアでは、「テレビCM」4割くらい、「SNS」2割くらい、「値段」3割くらいと、1:1:1のパラレルな関係ではないはずです。
さて、みなさんがアンケート調査を組む時に、こんな設問をしていませんか?
「商品を買われた理由を、次のなかから、あてはまるもの全てにチェックしてください」。
そう、いわゆるMA(マルチアンサー)といわれる回答方法ですね。この方法では、購買者心理の実態を反映している結果とは言い難いのは前述のとおりです。
そこで、我々はこうしたアンケート調査を実施する際に、段階尺度を細かくし独自の手法でアプローチしています。こうすることで、しっかりと「ココロの中のシェア」という実態により近づけることができるのです。
■次なる課題、アトリビューション(=貢献度)をどう測っていくか
では、各媒体などのKPIに対する貢献度をどう定量化していくのでしょうか。
それはアンケート調査上で、KPIである各中間指標に対し、接触した媒体などのなかからその影響度を聞いていくのです。
こうした質問をファネルの各中間指標である「認知」「内容理解」「好意イメージ」「興味」といった各段階において都度聞いていきます。
この手法は、アンケート回答者にとってボリュームが大きく若干負担になりますが、そこは質問提示方法や条件式を上手に使ってバイアスがかからないよう設計します。ここでは、長くなるので詳細説明は割愛させていただきます。
結果、認知効果→テレビCM、商品理解効果→企業HP、興味喚起効果→SNS、購買→店頭POPといった各KPIにおいて強い分野の傾向を把握することができます。
最終的には、一般的に言われている媒体特性と傾向は近しいのですが、「当該の商品における有効媒体」が仔細に把握できることが大きな強みとなります。
こうした方法を購入段階にも適用することで、購入に対する各施策のアトリビューションを明確化することができます。その際には、「価格」「味」といった非コミュニケーション要因の影響度を聞いていくことも忘れてはいけません。
■さらに精緻化するために「複数パス」のパワーを捉える
直接的な貢献度が出たうえで、さらにアトリビュート分析の精度を高めるためにパス図の作成を行います。
「企業のホームページから購買につながった」場合に、そのホームページを見る「きっかけになったのはテレビCM」であったりします。そういったパスやその太さを明確にしていきます。
具体的には、「企業のホームページへの閲覧のきっかけ」「話題・口コミとなったきっかけや内容」といったものに各媒体がどれくらい寄与しているかをアンケート調査で取得します。
主な作業点は、テレビCMが売上に対し間接的な貢献をしている、その貢献分を加味する作業となります。
図のように、テレビCMの貢献度指数は、直接パス13.4+間接パス計5.5=18.9となり、直接パスだけをみている指数に対し、テレビCMから発するパワーは1.41倍となりました。
こうして算出されたアトリビューション効果を金額換算し、テレビCMなどに投資した費用との見合いを検証し、効率的な媒体を模索することで次の施策につなげていくことになります。
今回の解説では、一読すると「相当ややこしい作業や考え方がある」という印象を受けたかと思います。
確かに「調査設計」や「データ解析」そして「アウトプットの解釈」では、多くの経験と知見が必要となってきます。私どもテムズでは、こういった観点や考え方をもとに分析手続きやアンケート方法をパッケージ化した簡略なものを各企業に提供しています。
今回ご紹介したいくつかの事例も、テムズが開発したクロスメディアROI解析パッケージ「C・ROI(クロイ)」によるものです。
※参考事例で表記された数値は、分析イメージを理解いただくためのダミーデータです。