ほんのちょっと未来の広告を考えてみる

ちょっと先に見えている広告の未来。そのための研究を行っているマイクロアド未来広告研究所がお送りする、広告テクノロジーとデータ利用の話。(全6回)

中川 斉

第5回:アドテクノロジーの次のテクノロジー~テクノロジーが変える未来のブランド体験~(前編)

 

この数年で「”広告”ってもう”広告”じゃないよね」という話をよく耳にするようになりました。
ネット媒体の発展で、一方通行だったコミュニケーションがインタラクティブになったよねとか、アドテクノロジーの進化で、広告がマスコミュニケーションだけでなく細かいターゲティングが可能になったとか、サーチ+コンテンツで、生活者が必要な時に必要な情報を自ら取りに行けるようになったとか、広告しなくてもSNSで生活者が情報を拡散してくれるとか。

 

 

たしかに、コミュニケーションといいつつもほぼ一方的に情報をまいていただけの広告から、生活者側の論理で情報を得ることが可能になるものに、マーケティングコミュニケーションが変化しています。生活者側もうまく利用すれば、広告も“必要な情報”になると考えてきているのだと思います。

 

一方で、この一年でまた違う流れが起こっています。体験を伴うマーケティングコミュニケーションです。これまでも体験型ブランドコミュニケーションはイベントを中心に様々な形で行われてきていますが、新しいテクノロジーを使うことで見たり聞いたりするだけでなく、それ以上の“体験”ができるようになってきました。

 

この2つの流れ、すなわち「もっと自分ゴト情報化」と「新しい体験型コミュニケーション」に欠かせないテクノロジーが、センサーとディスプレイです。センサーとディスプレイは、人との物理的な接点であり、この領域の進化はコミュニケーション技術の進化と同義のはずです。これまではインタラクティブなブランド体験とは言っても結局、マウスで操作して画面の映像が反応するといったものがほとんどでしたが、それが大きく変わる可能性があります。

 

皆さんがお持ちのスマートフォンにも、タッチパネルや音声入力、加速度計、GPS、カメラといった様々なセンサーが組み込まれています。デバイスを傾けたり、振ったり、カメラを向けたり、話しかけたりするなど、より“体験”に近くなってきているのを皆さんもお感じになられているのではないでしょうか。

 

こちらの広告、読者の皆様にはもうお馴染みかと思います。

 

電車がホームに入ってきたことをセンサーで感知して、画面の中の女性の髪が風でなびくというデジタルサイネージです。広告の映像が“向こう側の世界”だったのが、“こっちの現実”と連動することで、自分ごとの体験になっているのではないかと思います。ちょっと不思議なバーチャル体験なので記憶にも残りやすいし、SNS投稿のネタにもなりやすいですね。

 

ここでは超音波近接センサーを使って電車が近づいてくることを検出しているようです。決して新しい技術ではなく、Arduinoなどの小型コンピュータと安価になったセンサーを使えば、電子工作の初心者でもちょっと勉強するだけでこのくらいのものをつくることができます。アイデアさえあれば簡単にカタチにする開発環境がすでにできているんです。このような環境の変化もとても重要です。ちなみに、今調べたら超音波距離センサーはAmazonで360円で売ってました。ロットで販売ではなく、単品1個で360円です。

 

もう少しセンサーの話を続けてみましょう。

 

先日、マーケティングの大家フィリップ・コトラー教授が来日した際に、これからのマーケティングに必要なことの一つとして言及されていた“ニューロマーケティング”。一時期に比べると、計測装置は安く小さくなりましたが、無意識下の反応や身体の状態を簡単にセンシングできる技術は他にもあります。指にクリップ状のものをつけて、脈拍、体温だけでなく、血流量、血糖値、血中酸素濃度などを計測するセンサーや、アイトラッキングの調査装置もだいぶお手軽になりました。iPhoneのカメラを顔に向けるだけで“非接触で”脈拍を計測するiPhone アプリ(Cardiioなど)もあるくらいです。KinectやLeap motionを使えば関節の動きがわかります。これらはひっくるめてバイオメトリクス(生体計測)と呼ばれています。得られたデータを分析することでストレス度、体調の変化など、マーケティングに使える意味づけをすることが可能になっています。

 

基本的にクリックなどの実際の行動か、インバナーサーベイなどでのアンケート調査でしかできなかった広告効果測定が、これらの技術を応用することでまったく新しくなる可能性があります。すでに広告表現や商品パッケージのテストで使われはじめています。さらにリアルタイムで生体データを広告に活かすことができれば、体調やストレスの度合いによって適切な広告を配信したり、広告を一旦出しても、反応が薄かったり嫌がられたらすぐに引っ込めるといった技術もそう遠くない未来にでてくるでしょう。必要な時に必要な情報を、顔色を見ながらだしてくれるのであれば、広告を嫌がられることはないでしょう。生活者と広告主双方にとってハッピーですよね。

 

かつてマーケティングデータは、アンケートベース(意識ベース)が主体でしたが、それがID付きPOSや購買データ、Webトラッキングなどの行動ベースに移り、さらに生体情報がベースになるかもしれません。究極の個人データはDNAです。現状では非接触でリアルタイムにDNA情報の解析はできていないと思います(おそらく)が、それが実現されれば、、、、ちょっと怖いですが、使い方次第ではいい未来になるのではないでしょうか。

 

 

この続きは「第6回:アドテクノロジーの次のテクノロジー ~テクノロジーが変える未来のブランド体験~(後編)」でお話させて頂きます。

Column バックナンバー一覧