アンバサダー思考録 ~ソーシャルは”人”なり~
絶えず変化するソーシャルメディアに対して、企業やブランドは今までのコミュニケーション活動とどのように組み合わせるべきなのか、「顧客との価値関係」をどのように継続・発展させていくべきなのか、本連載では「アンバサダー」というキーワードで、ソーシャルメディアへの取り組みを「人軸」で考えます。
第4回:ブランドに貢献する「アンバサダー」の探し方:発掘対象となる3エリア
前回のコラムでは、ソーシャルメディアを中心としたユーザーの発言や行動がアンバサダー発掘の手がかりとなり、判定する際にチェックすべき「ロイヤルティ」「クオリティ」「パワー」の3つの要素があることをお話しました。
今回はチェックすべきポイントを踏まえた上で、アンバサダー発掘におけるソーシャルメディア上のデータをどのように捉えるべきか。そして、アンバサダーを探す際の”発掘エリア”について考えていきます。
|ソーシャルメディアの指標は何に貢献するのか?|
ソーシャルメディアの運用の現場では、ともすればFacebookのファン数やTwitterのフォロワー数といった登録者数増加が目標になりがちです。
これは「登録数=ユーザーの支持数」として社内に対して活動の報告がしやすく、メルマガの購読者数に近い感覚で”多い事は良いこと”として一番分かりやすい指標であるためでしょう。(メルマガと異なるのは、競合の登録者数がファン数やフォロワー数といった形で可視化されている為、競争意識が働きやすい構造になっています)
一方、様々なデータが取得できるソーシャルメディアは魅力的で、今まで把握する事ができなかったエンドユーザーの活動や”生の声”を聞くことができます。 また、他のデータと組み合わせることで、商品開発や需要予測など様々な領域で活用しようという動きが活発になっています。
しかし、多くのデータが取得できること自体が混乱を生んでいる側面もあります。データが多く取れるからこそプラットフォームごとの「役割」を決めた上で「目的」と「目標」を設定し、惑わされないようにすることも大切です。
では、ソーシャルメディア上の様々な指標や利用者の発言データをどのように捉えるべきでしょうか。
1つの方向性として、ソーシャルメディアの指標を「ボリューム」や「リーチ」のみで考えず、発言・活動している「人」に着目する事が重要になってくると考えています。
つまり、ソーシャルメディア上の様々な指標を『分母』と考えて分析をすることで、ブランドにとって貢献してくれる「熱量の高いファン=アンバサダー」を見つける事をゴールに設定します。
判定の基準については前回のコラムでご紹介した「アンバサダー発掘の基本3要素」をベースに、傾聴(ソーシャルリスニング)を通じて、ブランドにとってのアンバサダーとはどんな人なのかを設定します。
「アンバサダーを見つけること」をゴールにすることで、「なぜファンを増やすのか?」、「なぜユーザーの反応や発言を促進するのか?」、ひいては「なぜそのSNSにアカウントを開設するべきなのか」が明確になります。
では、アンバサダーはどこにいるのか?どこで探せばいいのか?について考えていきましょう。
|アンバサダーを発掘する3つのエリア|
ブランドと利用者を結びつけるタッチポイントは様々あり、それぞれのエリアの特性に合わせたアンバサダーの抽出手法とアプローチが必要になります。
アンバサダー発掘対象となるエリアは3つあると考えています。
それぞれのエリアについてアンバサダーが含まれている理由と、アンバサダー発掘のための傾聴・分析について考えていきます。
▼発掘エリア1:企業運営アカウント
自社メディア(Owned media)と外部プラットフォームであるソーシャルメディア(Earned media)の中間に位置するのがブランドのFacebookページやTwitterアカウントである『企業運営アカウント』であり、アカウント登録者の中にアンバサダー候補となるユーザーが含まれています。
アカウントからの情報発信に対して興味を持って登録したユーザーは、ブランドからの情報を能動的に受け取る意向があるため、積極的な参加や拡散が期待できる層であるといえます。
一方、インセンティブ付きキャンペーンへの参加の過程で企業アカウントに登録させる手法があります。このパターンで悩ましいのは、プレゼント目当ての参加者(いわゆる”バーゲンハンター”)も多く含まれるため、キャンペーン終了後に登録者が離反していくケースをよく見かけます。
●傾聴・分析すべきポイント_________________
・ブランドが発信する情報に対して継続的に反応するか、拡散するか
・ブランドに関する言及を何回しているか、発言者の影響力はどのくらいか
・アンケート等を通じてリアルの購買実績・推奨意向・推奨実績の有無
ブランドが提供した情報に反応してくれる質の高い登録者を増やすためにも、新規獲得ではなく既存登録ユーザーを対象にテーマを設定し、その周辺にいる友人や知人に参加してもらえるような設計がアンバサダー発掘の観点からは望ましいと考えています。
▼発掘エリア2:ソーシャルメディア全体
ブランドについての発言は企業運営のアカウント[内]だけでなく、ソーシャルメディア全体[外]で語られており、発言ボリュームはアカウントの内よりも、外が多い事が一般的です。
キャンペーン時に盛り上がるユーザーの発言も大切ですが、興味深いのはブランド側から特にアプローチすることなく、キャンペーンの情報が届いていないにも関わらず、『ブランドについて発言や推奨し続けるユーザー』の存在です。
現状は発言データの収集がしやすいTwitterとブログがメインの分析対象となりますが、ブランドによってはYouTubeや価格.com等の特定カテゴリーのCGMやクチコミ比較サイト利用者も対象としています。
●傾聴・分析すべきポイント_________________
・ブランドに関する言及を何回しているか、発言者の影響力はどのくらいか
・ブランドへの発言に対する周囲(フォロワーやブログ読者)の反応
・ブランド言及ユーザーと、企業アカウント登録者との突き合わせ確認
もう1点、発言ボリュームだけでなく、“何がトリガー(原動力)となって発言に至っているのか?”を見ていくことが今後のリレーションを考える上で非常に大切な視点です。また、発信した情報に対して、どのような反応があり広がっているのか、そのユーザーはどんなブランドにとって、どんな役割を担っているのかをチェックしていく重要性が高まっています。
▼発掘エリア3:自社メディア/顧客DB
意外と忘れられがちな反面、優良なアンバサダーが一番多く存在する可能性が高いといっても過言でないのが『自社メディア/顧客DB』です。
つまり、自社ECの購買客、メルマガ会員、ポイントサービス会員、そして店舗を訪れるお客様など、自社の保有するデータベースの中にこそアンバサダーの候補となる方が多くいるはずです。
このエリアから発掘するメリットは大きく、通常ソーシャルメディア上で見つけたファンと定期的に連絡を取るためには、改めてeメールアドレスなどを提供してもらわなければなりませんが、EC会員やメルマガ会員とはすでに連絡手段があります。
このユーザーはリアルではどのような貢献をしてくれていて、ソーシャルメディア上ではどういう発言をしているのかをひも付けて分析することは非常に有効です。
●傾聴・分析すべきポイント_________________
・対象者とソーシャルメディアアカウントのひも付け(必ずしも発言していなくても良い)
・ソーシャルメディア上の発言有無・影響力・周囲の反応
・自社サービス/DB内活動状況(商品購入・キャンペーン参加等)、リアルでの購買意向・推奨意向
ソーシャルメディアを活用した施策はweb上にいる「どこかの、誰かがクチコミを広げてくれる」といった期待をしがちですが、まずは既存顧客の中で満足度の高い方を見つけることが近道です。
つまり、アンバサダーを発掘するためには、既に買ってくれている”目の前のお客様”を積極的に分析対象としていくことは必須事項と言えるでしょう。
(特に地域で商売をする店舗や施設など、商圏が限定される業態やB2B領域においては既存顧客分析の重要度は格段に高まります)
|アンバサダーの発掘と活性化のプログラム|
今回は3つのエリアごとにアンバサダーとなるユーザーの存在や、発掘のために確認すべきポイントについて考えてみました。
それぞれのエリアを分析・抽出したアンバサダーは特性ごとにリスト化し、優良な発言者として蓄積します。
このアンバサダーに対してブランドは様々な「発言機会」を提供することで、安定的に優良な発言や推奨を引き出し、周囲の友人の反応を導く過程で新たなアンバサダー候補を見つけていきます。
そして、“アンバサダー”はデジタルやソーシャル上に限って存在するではなく、あくまでも「人」軸でとらえ、リアルの活動やタッチポイントも含めて分析・蓄積・活性化していくのが理想です。
「なぜ安定的に発言が期待できるのか?」
それは、キャンペーンとは関係無く、既に好意的な発言をしている人を対象にリレーションしているからです。
そして、アンバサダーのほとんどが製品やサービスの購入者であり、積極的な情報拡散行為や推奨を行い、時として困っているユーザーのサポートをする事もあります。
そのような「熱量の高いファン=アンバサダー」に向けて、最適な「発言機会」を提供することで活性化と評判形成を『アンバサダープログラム』として実施していきます。
次回以降からアンバサダーを発掘を前提とした施策やリレーションの具体例を紹介していきたいと思っています。