アンバサダー思考録 ~ソーシャルは”人”なり~
絶えず変化するソーシャルメディアに対して、企業やブランドは今までのコミュニケーション活動とどのように組み合わせるべきなのか、「顧客との価値関係」をどのように継続・発展させていくべきなのか、本連載では「アンバサダー」というキーワードで、ソーシャルメディアへの取り組みを「人軸」で考えます。
第3回:ブランドに貢献する「アンバサダー」の探し方:判定の3要素
今回はブランドの活動に貢献してくれている「アンバサダー」の探し方について考えていきたいと思います。
前回、前々回のコラムで企業にとって繋がるべき人「アンバサダー」の特徴についてお話しさせて頂き、アンバサダーの定義は「ブランドについて自発的に発言や推奨行為をしている人」としました。
これは逆の視点で考えると「いくら発言者に影響力があってもブランドについての言及が無ければアンバサダーの候補にならない」ということになります。
実際にはインフルエンサーに対してアプローチしてファンになってもらい、発言をしてくれるように促す活動も組み合わせて実施する事が多いのですが、今回はいわゆる影響力(=リーチ)だけではない要素も視野に入れて「アンバサダー候補の発掘」をどのように取り組むべきか、について考えていきたいと思います。
|ソーシャルメディア上の発言や行為をリーチではなく、「指標」として考える|
マス広告を含めた施策を通じて、ブランド側が取得できるデジタル領域のデータは益々増加しており、魅力的ではあるものの、振り回される懸念もあります。
他方、ひとりひとりの発言・行為を見ていくと、様々な発言内容や、発信される情報の”質”について、個性や傾向によるバラツキがあることが分かります。リーチを重視して、発言件数でカウントするとAさんも、Bさんも同じ発言1件かもしれませんが、受け手あっての発言ですので、リーチだけでなく、与える影響を加味する必要がありそうです。
(何気なくつぶやいた利用シーンを伝える発言の効果と、”誰かに読んでもらいたい”と考えながら商品の体験を綴ったブログの体験記事に対する反応や役割は異なります。)
この様にソーシャルメディアの発言や行為は深く見れば見ていくほど、影響力(=リーチ)以外の要素が沢山あるのが特徴でもあり、熱量の高いファンであるアンバサダーを探すためには、それらの発言や行為をどのように指標に置くべきか大きな課題となっています。
その為にもアンバサダー候補を発掘する際に一定の指標が必要となり、分析する際の大きな助けになります。
また、指標を定めることで、どのような活動を推進しファンにどんなアクションを促すべきか注力するポイントを絞り込む効果もあります。
|アンバサダー候補判定における基本3要素|
様々な情報発信者の中からアンバサダーを見つける上で、重要で基本となる3つの要素を挙げさせて頂きます。
▼[要素1:ロイヤルティ]ブランドロイヤルティや売上貢献
ソーシャルメディア上の発言データを元に、ブランドについてのロイヤルティを測る際には、発言回数(期間内に何回ブランドについて言及しているか)や、推奨行為(友人にお薦めしているか)といった指標が参考になります。
加えて、ソーシャルメディア上の活動だけでなく、リアルでの発言・推奨・購買活動も把握する事で、より付加価値の高いアンバサダーを見つける事ができます。
しかし、ソーシャルメディアの取り組みにおいて、「人軸」で効果測定を行ったり、リアルの購買・推奨活動をまで調べるケースは少ないのが現状です。(そこまで手が回っていない、というのが現場の実態かもしれません)
一例を挙げると、Facebookページの中だけを見ていると、投稿に対するいいね!やコメントといったアクションが無いファンの価値は”ほぼゼロ”です。(少なくともFacebookページ運営者が見る効果測定画面上は価値ゼロに見えてしまいます)
しかし、本当にそうでしょうか?
そのユーザーは製品の継続購入者だったり、身近な友人に製品をお薦めしているロイヤルユーザーかもしれません。
ソーシャルメディア側の分析だけでなく、アンケート等を通じてリアルの発言貢献や推奨行為も合わせて把握する事で、登録してくれているファンやフォロワー中で優良なアンバサダーを見つける事ができます。
▼[要素2:クオリティ]発信する情報の質
ブランドの評判形成や継続的な販売に貢献するには、利用者による自発的な体験情報の共有や、評価・推奨といった情報に触れてもらう事が効果的です。(一時的に盛り上がるバズ施策ではありません)
一方で、製品についてのクチコミ数はどのブランドでも多いわけではなく、加えて「買いました!以上!」みたいな、短いコメントと写真のみで語られる程度の記事ほとんどというケースもあります。この状態を見て、”うちの商品は語られないんだ・・・”と不安になってしまいそうです。
それでも悲観的になることはありません。
なぜならば、元々ブランドについて”わざわざ”語る事自体がハードルの高い行為であり、情報発信してくれる利用者がいる時点で非常に恵まれているといえます。
また、前提として体験したことや製品をレビューして、誰かの態度変容を促したり、役に立つような情報発信ができるブログなどの書き手(ブロガー/レビュワー)の絶対数は少ないのです。
だからこそ、ファンであり優良なレビュワーを見つけたら早めにリレーションを築くべきでしょう。
また、発言をしているものの、クオリティが水準を満たしていないファンには情報や発言機会の提供など、ソーシャルメディア上のコミュニケーションを通じてブランド側が支援して行くことでクオリティを向上させることも、これからの重要な役割となります。
▼[要素3:パワー]発信者としての影響力
影響力の指標として、Twitterであればフォロワー、ブログであればPVといったシンプルな項目で把握する方法もありますが、ソーシャルメディアではAPI等を通じて取得できる様々なデータを元に多角的に分析することが可能です。
ちなみに弊社では、『ユーザーチャート』というサービスを提供しており、Twitter/Facebook/ブログなど8つのサービスを利用する個人の影響力を「レベル」で計測できるようになっています。
また、そのユーザーが最近よく発言している「キーワード」や「ブランド」もランキングで把握できるため、企業にとってもファンであり、かつ影響力があるユーザーの適性を指標化するといった活用をしています。
ソーシャルメディア施策において、発言者の評価には「影響力(=リーチ)」を重要視しがちですが、アンバサダーにおける「影響力」とは単にTwitterのフォロワーやブログのPVが多いといった指標だけでなく、特定のブランドについて情報発信をした際に”周囲の反応があるかどうか”を見ていくことも大切だと考えています。
例えば同じテーマで2人がブログ記事を書いた際に、コメントやTwitterでの拡散、Facebookのいいね!が押された数といった反応のボリュームに差が出ます。よりアンバサダーとしての価値が高いのは周りの友人や読者の反応を多く引き出したブログの書き手となります。
「それって書き手のPV次第では?」と思われがちですが、PVと反応量は意外と比例せず、影響力はそこまで無くても特定のテーマに対して多くの反応を導き出せる人や、キャンペーンに参加したことをソーシャルメディア上で拡散すると、投稿経由で多くの参加者が見込めるといった情報の”ハブ”になるアンバサダーが多く存在するのです。
|ソーシャルメディアの役割から指標を考え、分析する|
ソーシャルメディアによって個人の発言の価値や影響力が高まっているからこそ、クチコミに期待する役割や効果を『影響力=リーチ』ではなく、『影響力=ファンを通じて身近な友人・知人(=コミュニティ)へ伝達と反応』も加味して再定義することが必要ではないでしょうか。
アンバサダーを探す為には、影響力だけでなく、「いかにそのブランドのファンか」や、「情報発信者としてのクオリティや周囲の反応を導き出せるか」という視点で発言者を見ていくことが必須になりそうです。
また、それぞれのブランドにおけるソーシャルメディアの役割を決めていく事で、提供すべきるコンテンツや、指標とすべき項目が決まっていくことも忘れてはいけません。
次回以降はアンバサダーをどのエリアからどのような方法で発掘するのかについて、今回お話した3つの要素をベースに考えていきたいと思います。