第1回:明確な動機づけが企業を活性化する~企業活力に必要なインセンティブアイディア!!

 

 インセンティブマーケティング研究所の山本です。
今回は、「インセンティブマーケティング」についてのお話をさせていただきます。 

 

インセンティブマーケティング研究所を開設して約20年になります。独立前に25年近く企画に 従事しておりましたので、この仕事を40数年やっている事になります。

 


これまで数百という事例を開発して参りましたが、最近の事例は守秘義務の問題もあり、ご紹介が難しい点もありますので、過去の事例を元にインセンティブの考え方を含め説明させて頂きます。

 

 マーケティング活動の中で、インセンティブ策をどの様に組み入れていくか!インセンティブマーケティングの解釈や活用は、多種多様に使われているのが現状です。消費の現場では、昨今マイレージ型のポイントサービスが多く導入されていますが、はたして 消費者の購買行動に良い刺激になっているかどうか!一度検討してみる必要があります。競合各社も次々とポイントサービスを導入し、差別化としての施策が消費行動を刺激する魅力が半減しているのが現状です。ポイントを付与すれば売り上げは伸びる!という単純な施策が通用する時代ではありません。

 

 インセンティブ施策の原点は、「人の心に働きかける」ことが出発点です。 消費の現場販売の現場流通の現場等、あらゆるマーケティング活動の活性化に欠かせない 施策と言えます。 

 

“成功するインセンティブのポイントはなにか!” について、ご説明します。

 

 

■ インセンティブマーケティングの概念

 ここで、インセンティブの基本的考え方について少し整理致します。
昨今、企業経営の中に心理学的な考え方や手法を取り入れる動きは、多様化が拡大される企業活動において、ますます重要な対策となっています。

 そして、一人ひとりの個性化が進む傾向の中で人間としての行動の価値が複雑化しています。この様な背景からも、今、個人に焦点をあてた「個人の行動を引出すインセンティブプラン」が見直されております。

 

 

■ インセンティブの役割

 インセンティブの役割は、「企業活動の諸テーマの解決の為に、特に人に焦点をあて、活性化に向けて、動機づけ(MOTIVATION)を起こしていく戦略的施策です」
施策開発にあたっては、動機づけの原点を良く認識し、活力づくりとなる企業活動のユニークな推進策となる様、インセンティブ活動やその手法のあり方をはじめ、成功に導く開発法について研究が必要です。

 時代を読み新しい話題を盛り込む事や、関心を呼ぶアイディアのある施策を開発し、参加共鳴~感動を記録した成功事例の一部についてご紹介致します。

 

 

■ インセンティブの流れ

 インセンティブと言う概念が日本に入ってきたのは1960年半ばでしょう。

 今でこそ、商品を買ったらおまけやサービス券がついたり、抽選券やポイントが貯まったりするのは当たり前になっていますが、その当時、おまけの様な物を使って人を 動かすと言う発想は日本企業の文化にはあまりありませんでした。もし、あったとしても馬人参方式で強制のインセンティブとされていました。

 高度成長期に至るまで、個人ではなく組織にスポットを当てた時代です。アメリカでは個人主義が生産活動の主として考えられていましたので、インセンティブは当たり前の活動として行われておりました。

 

 インセンティブと言う概念は、アメリカのガソリンスタンド等が活用を始めた様です。スーパーマーケットやガソリンスタンド等のサービススタンプをお客様向けだけでなく、企業の生産活動に取り入れ始めたのが発祥となります。

私が20代の時、輸入車商社のヤナセに席をおいていた際に営業活動の現場にインセンティブと言う考え方が入ってきました。当時、正直大変なカルチャーショックを受け人を動かす仕掛けがこんなやり方で出来るのかと、思った程です。ちょうどこの頃、流通革命の時期、日本にもアメリカのS&Hスタンプ社の提携企業がスタートし、インセンティブビジネスが活動を始め縁あって誘いを受け転職の機会となりました。

当時は、新しいビジネスのデビューで華やかに全産業に向け提案や企画開発が行われました。

繰り返しになりますが、インセンティブの活用ポイントは組織ではなく個人への刺激です。

ちょうど日本の企業活動も流通対策や自社内の活性化そして販売促進活動に於ても 新しい手法を求められていた頃です。

しかし、日本では法的問題(公取規制や税務規制)で企画が制限される事も多々ありました。すべてが消費者視点で成り立っていたため、人を刺激する手法への法的整備が遅れていた事もあります。

人を動かす施策は、強制ではなく基本的に楽しさや感動がないと意味がありません。 そんな環境の中、アイディアをいろいろと工夫し企画を成功に導いてきたわけです。

大手広告代理店も各社インセンティブに参入されて、数社の勉強会でレクチャーしましたが企画が難しく、うまくいかずに終わりました。

現在も、インセンティブマーケティング専門の会社は無いと思います。プレミアムやギフトや景品をインセンティブ企画として扱っているケースが多いという傾向です。

 

 

■ 販売促進活動による成功事例(1)

 「中華まんじゅう」の食品メーカーでの事例

 最初は、「肉まんあんまん」を製造販売する食品メーカーでの事例です。

販売チャネルはフランチャイズチェーン3千店程の店舗を対象に導入されました。

長年、取り扱いはありましたが、従来の仕入れ恩典だけの販促では年々効果が出にくく 店側の取り組み意識を高める課題が検討されていました。新しい販促として、店舗に販売の動機づけを起こそうと言うテーマの基に従来に無い仕入れ から販売視点に評価ポイントを重視した設計を開発しました。

 

 このチャネルは、店主と奥さまが主となる家業的な形態が多い店舗です。故に企画の対象は 明確でしたので、新しいテーマでのアプローチで興味関心を惹きキャンペーンへの参加を 大前提にしました。例年、フィールドセールスが店ごとに期間の扱い数量をお願いして販売量を決めていく事が目標となっていました。

 

この商談時の目標設定は前年比がベースでメーカーのお願い目標が 常となっていた様です。この「肉まんあんまん」は、外気温で購買心理が変わってくる商品特性があります。外気温 5℃以下になるとニーズが高まる、ということが経験的にわかっています。店頭に蒸し器が設置されて白い蒸気が吹き出る姿がお客様を引き付けるので、販売のチャンスとなりますが、お店の判断で、客足によって、電気代節約のために蒸し器の電源が切られてしまい、商品が少なくなって販売の姿勢が弱くなる事も課題の一つでした。企画の設計ポイントは次の点です。

 

 「大前提として、毎日の営業時間は全力で販売の姿勢を持つ」、
 「対象店の全店参加を確保する」
 「店主夫妻で真のチャレンジ目標を自主的に設定する」
 「従来の6か月の販売期間を3カ月毎の前期後期でトライする」

等を設定し、販売への動機づけに徹しました。

 

 企画の特徴は、ゲーム性を入れた演出です。
まず最初に参加意識と販売目標の部分に新しさを準備しました。「販促いろはかるた」のツールが新鮮味を持ち興味を高めました。フィールド営業がこのツールを持ち店主奥さまを対象に説明し、「かるた」を1枚選んで頂きます。

 この「カルタ」は、例えば「い」=「威勢よく声を掛ければ商売繁盛」という様に「いろはにほへと」といったように、販売がし易くなる標語を用意しました。お店が、やってみようと言うかるたを1枚選んで頂き、それをボードに書き夫妻に掲げてもらい、写真
を撮りキャンペーン作戦カードに貼りチャレンジ目標を記入した事をエントリーとしました。参加行動をサポートする「販促五技」のメッセージも行動を促進する企画のポイントです。これは、キャンペーンの成果を高める五つの技をプログラムに入れ行動の基準を明確にしたものです。

 この作戦での総合的な環境のサポート体制も従来に無い準備をしました。
お店の営業時間内は蒸し器を充分に稼働させること(電気代をメーカー側が負担する)、蒸し器内に商品が常に補充されていること(残った商品は引き取る)、そして毎日の実績が確認できるツールの用意、といったようにキャンペーン進捗を援護する体制がより成果を高めた事例となりました。

前期の結果が、後期の参加エントリーのランクに連動し、6か月の成績で対象店のご夫婦を海外ツアーに招待する話題ある企画となりました。

 結果、対象店の大方が参加エントリーした事、店頭での販売行動が積極的になった事、この時期、消費者プレゼント企画を連動した面も良い形で成果を出した事、等々、目標達成率も前年比を大幅に伸ばした事例となりました。

この企画の成果としては、従来、お店に仕入れてもらう数量だけきめる、押し込み型企画とは異なり、販売のプロセス部分に新しい刺激を演出し、ゲームを楽しむ感覚で展開できたところと言えます。

 

 

■ 販売促進活動による成功事例(2)

 訪販化粧品大手のセールスインセンティブ事例

 全国150,000人を有する訪販化粧品大手のセールスレディを対象にしたユニークな企画です。「がんばるウーマン作戦」と銘打ち、「全国全社全セールス」向けの大規模施策として展開されました。毎年、目標を達成できるセールスは一部の人数に限られている状況の中で、新人セールスまで広げ、全体のボトムアップを図る目的で開発されました。

 

 当時、販社が100社程度、営業拠点が6,000拠点というチャネル規模で、新客発見を全社活動で仕掛けながら、加えて、毎年補欠採用される新人セールスを如何に固定セールスレディとして定着させるか、という2つの点を同時に達成することをテーマに組み入れたものです。販売スキルの差に関係なく、全員が参加できるチャンスを用意し楽しく仕事ができる仕掛けが特徴でした。

 

 最初は、施策への参加に表明してもらうことから始まります。毎日出勤すること、セールス研修に参加すること、そして、増客させるための行動喚起プロセスに徹底してウエイトをかけました。

従来の、売上で評価する方式ではなく、売り上げを上げるプロセス部分を分解し、インセンティブアイディアを仕組んだ事例です。

施策が導入される数ヶ月前から、助走的プログラムを仕掛け、拠点での準備万端のシチュエーションの中、キックオフミーティングからのスタートです。

 これまでに無い施策だけに、ミーティングには全員参加すべく「ドアプライズ」の抽選会を演出し企画内容を明確に伝える事を重視しました。キャッチフレーズ「あなたのハイヒールはバネ仕掛け」や「がんばるウーマンに変身」する各種ツールやPOPの面白さ、そして表彰大会に至るまで大がかりな演出を施しました。

 地区予選をクリアーした人は、武道館の全国大会に5,000名招待され、表彰式や都内ホテルを貸切ミッドナイトパーティの中で、特殊な抽選会を演出し、パリツアーの当選者を選出しました。

 数年間で、「がんばるウーマン」はセールス活動の代名詞となり、各拠点での職場の中にもツールや管理グラフにも活用されておりました。

 

 結果は、60,000人程が目標達成者となり、前年比130%に届く販売実績を上げることができました。この記録は、成功事例としてメーカーから表彰された自慢策となっています。
成功のポイントは、対象者にとっての参加の意義を明確にしたことや、一人ひとりの達成感を大切にフォローした事と分析しています。

 

 

■販売促進活動による成功事例(3)  

 大手漢方薬メーカーでの事例

 これも特徴ある事例となり今でも有効な施策です。

昨今のコンビニ的なドラッグストアではなく、以前から専業の調剤薬局をしている店舗が対象とされ、中高年に向けた「八味地黄丸」の顧客発見に焦点をおいた企画です。
「八味地黄丸」というのは、腎機能低下にともなう夜間頻尿などに処方する薬です。

 

 薬局に本気で取り組んで貰うための企画を開発して欲しい、という命をうけて設計したものです。薬剤薬局的な店舗で特定の市販薬を対象に如何に取り扱い意識を高めてもらう事ができるか。その基本は、やはりプロセス刺激がポイントでした。つまり、店舗に並べておけば売れる、お客様から求められたら販売する、というだけで顧客が増える事はありません。

 実績が低迷している中、特定期間、集中した徹底策を導入すべく企画を設計しました。自己流で販売することが多い薬剤薬局に、この製品が持つ特性を如何に認識させ、自分たちが持つ薬剤の専門性を発揮させる事例となりました。

この戦略を検討する際、頻尿の相談で来店する客は問題なく「八味地黄丸」を勧められますが、販売拡大のためには、その予備軍の段階の方から見つけ出す必要があるだろう、ということになり、どうやって予備軍を発見すればよいのか、という入り口段階の企画が必要となりました。

医学博士、全役員を交えて議論の結果、かすみ目が出る症状は腎臓疾患の疑いがある、という事から目薬を買ってくださる客は潜在顧客である、と整理しました。この議論は、ターゲットとなる客とは誰なのか? という点が非常に重要です。この段階で苦労した事を覚えています。もっと他にも潜在顧客を見つける方法はあるのでしょうが、このときには、キャンペーンの行動目標をビジュアル化する上で、スローガンとして演出に至った訳です。

 

 導入の参加表明は、「需要創造研究会」という勉強会に参加すること、をエントリー条件とし、来店客にどうアプローチして、新しいお客様を発掘できるかが企画の軸となりました。

「熟年接近大作戦」の名称で「目薬客全員アプローチ」をスローガンとし、アプローチツールが用意されました。従来の個数カウントでなく顧客アプローチ件数を評価する仕組みです。

「健康シグナルカード」を来店客(目薬客)に提示し、その記入項目から白衣の店主が専門性を発揮して判断するシートをツールとして用意しました。 その効果として、店主が生き生きと行動する姿が確認できました。

 

結果、販売個数も記録的に伸び成功事例として記録されております。施策としては、店舗の装飾POPテレビCMと総力での期間となりましたが、振り返れば、店主(先生方)の行動の目覚めの部分のインセンティブが功をなしたと整理しています。

 

 

■ マーケティングコミュニケーションとしてのインセンティブアイディア

 コミュニケーションモデルは五つの要素から成り立ってます。
①メーカー ②販社や代理店 ③リテール ④オピニオンリーダー ⑤そしてコンシュマー、となりますが、どのコミュニケーションモデルの施策に於いても、重要なのは、まず参加表明です。参加率を高める工夫がインセンティブの最大の目標です。

 

企画に賛同し自らエントリーを行う所が出発点、そして結果を引き出す為のプロセス刺激となってきます。インセンティブは脱落者を出す企画ではなく、達成し成功者を作る施策となりますので、原則的には個人刺激が前提となります。

 

参加者一人一人が共鳴し、自らの困難を乗り切る努力とやりがいがその人たちを成功に導く事になります。

 

企業の目標は、対象者一人一人の行動基準に置き換え、楽しい演出の中で力を発揮し、興奮や感激そして達成感を得る事がインセンティブマーケティングの大きな役割です。

 

企画は、準備出来たら終わりではありません。導入された時点がスタートです。

 

脱落者を出さず、一人でも多くの達成者を作ることがインセンティブプランナーの役目です。映画の様に最後まで興奮を持続するドラマを作る演出家が人を動かす事になります。
今の閉塞感の時代こそインセンティブマーケティングが上手に工夫されて欲しいと願っています。

 

 

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