弘亜社がみる、東南アジアのOOH広告&商業施設事情

創業74年のOOH広告会社の弘亜社は、2010年から本格的に東南アジアへの進出を開始。
タイではバンコクのスワナプーム国際空港と市内を結ぶ国鉄路線「エアポートレールリンク(略称ARL)」の広告媒体と駅商業エリアの独占販売権を獲得。
このコラムでは東南アジアのOOH媒体(屋外・交通広告媒体)と商業施設の現状についてお伝えします。

苅部伸太郎

第1回:タイ・バンコクの交通広告事情

600万人都市、バンコク

 「急成長する東南アジア」というフレーズが使われはじめてひさしく経ちますが、タイの首都バンコクは人口600万人を擁し、東南アジア屈指の大都市に成長しています。
市内にはバスの路線が張り巡らされ、鉄道路線も延伸を重ね、新たな路線の着工も続々と予定されています。
今回は、東南アジアを代表する都市、バンコクの交通広告事情をお届けします。

 

バンコクの交通事情

 ひと昔前のバンコクというと「信号待ちをするたくさんのバイク」というイメージをお持ちの方も多いと思いますが、現在のバンコクは車が急速に増加しています。車の車種も新しいものが多く、日本と遜色ないと言っても過言ではありません。ただし、バンコク中心部の道路渋滞は日本以上に激しく、時間帯によっては数キロの移動に1時間以上かかることも珍しくありません。
 公共交通機関は、路線バス、BRT(バス高速交通システム)、高架鉄道(BTS、ARL)、地下鉄(MRT)、タクシー(車及びバイクタクシー)、乗り合い自動車などがあります。弘亜社が広告販売を手掛けるARLは2010年8月に開業したタイ国鉄の新路線です。これらの公共交通機関の中でも近年、利用者が急増しているのが1999年に開業したBTSと呼ばれる高架鉄道です。開業からしばらくは利用者がまばらでしたが、近年は中間所得者層の拡大により利用者が爆発的に増加しています。現在の1日の利用者数は2路線30駅で合計50万人以上、朝晩のラッシュ時には乗り切れない乗客が出るほどです。

 

 

利用する交通機関で広告ターゲットをセグメント

 バンコクでは、その人が利用する交通機関によって所得レベルの大まかなセグメントが可能です。富裕層は自家用車を利用し、中間層は鉄道を利用、低所得層はバスを利用します。自家用車を購入できる層が裕福であることは言うまでもありませんが、公共交通でも鉄道とバスの料金には価格差があります。ARLの最短区間の乗車料金は15バーツ(約45円)ですが、バスは7バーツ(約21円)です。日本人にとっては僅かな価格差ですが、1日の最低賃金が300バーツ(約900円)の国ではそれは大きな差です。この事により鉄道広告は、ある程度の経済力がある中間所得層にリーチできる媒体と言われています。実際に鉄道広告を見てみると飲料、食品などの嗜好品やトイレタリー商品などが多く掲出されており、より豊かな生活を求める中間所得層以上の人々に向けて訴求されていることが分かります。
※1バーツ3円換算

 

なんでもアリ?の広告媒体
 タイの交通広告の特徴は、その広告規制の寛容さです。例えば、日本では山手線の車体に広告を掲出する場合、広告面積は車体側面の10%までしかラッピングすることしかできません。しかし、弘亜社が販売を手掛けるARLやBTSの場合は、先頭車両と後部車両の一部を除き、車窓を含めた全ての車体側面をラッピングすることが可能です。この規制の寛容さにより日本では出来ない大胆でインパクトのある広告ビジュアルを頻繁に目にすることができます。また、駅改札内では、利用者の動線を邪魔しかねない改札内中央での大型商品(バイク車体など)の展示や試供品サンプリングなどが可能です。また車内のビジョン広告では音声が大音量で流されています。日本では不快に思うかもしれませんが、全てが賑やかなバンコクでは不思議と当たり前のものとして受け止めることができます。

 

 

インパクト重視の広告表現からの変化
タイの広告といえば、とにかくインパクトがあるビジュアルやタレントを起用した広告が多いという印象ですが、最近では商品の便益をしっかり伝えようとする広告も増えてきています。この背景には、市場の成長に伴い競合商品、類似商品が増加し、広告による商品の差別化がより求められている状況があります。今後は市場や生活者のさらなる成長、成熟化により広告表現や接触方法の工夫がより一層求められるようになると思われます。

 

将来の展望
 急成長しているバンコクですが、大都市の交通網としては未熟な部分も多く、特に車の交通渋滞は酷い状態です。将来的には高架鉄道、地下鉄は現在の4路線からモノレールを含む20路線程度に拡大され、東京のような公共交通網が整備される予定です。交通広告に関しては鉄道や道路の整備と連動し、より大きなビジネスチャンスが広がっていくと考えられます。

【次回コラム内容】
タイ・バンコクの屋外広告事情をお伝えします。

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