第1回-2:777インタラクティブ福田敏也さんと語る “デジタルエージェンシー進化論”(後編)
第1回目の後編として、引き続き777インタラクティブの福田敏也氏とスパイスボックス デジタルコミュニケーションデザイン局 局長 山田喜幸との対談形式で、お届けいたします。
企業のビジネスパートナーとして、
エージェンシーのあるべき姿とは?
山田 コラム前編で、TIAAの受賞作品についてお話させていただいた中で、「クライアントのビジネスを一緒に考える人が、広告系の人なのかどうかということすら、どうでもいい時代に入っている」という話や、「クリエイターと営業の境界線があいまいになっている」という言葉もありました。そのあたり、これからのエージェンシーのあるべき姿についてもう少し深くお話させていただきたいと思います。
スパイスボックスでは以前から、Webにおける“ブランディング系”の仕事も“ダイレクト系”の仕事も、どちらも重要なクライアントのマーケティング課題として取り組んできているのですが、最近それぞれの業務に求められるスペシャリティがさらに高度化し、求められるスピードもどんどん加速していることを痛烈に実感しています。そもそもエージェンシー業務の中でも特にインターネット領域は、テクノロジーが絡んでいたり、運用が複雑だったりするケースも多く、誰でも簡単に扱えるという性質のものではないと思うのですが、そこにさらに輪をかけて業務対応の高度化やスピードが求められる時代に突入した今、デジタルエージェンシーの真価がさらに発揮されると考えています。日々変化する自社のマーケティングデータをクライアント担当者が細かく追っている時代に、エージェンシーとしてそのさらに一歩先の提案ができなければ、クライアントのビジネスパートナーとしては足り得ない存在になってしまうので。
福田 エージェンシーにさらなる進化が求められる背景には、これまで長い歴史で積み上げてきた作り方・売り方を変えなければいけないという、クライアント側の状況の大きな変化があるよね。つきあいの長い売り場の確保された流通に流せば一定数売れることが予測されていた鉄板モデルが、どんどん鉄板じゃなくなっている。会社としてはその鉄板モデルのサイクルをいきなり止めることはできないので、これまで通り粛々とそのサイクルを回しつつ、さらにプラスで何か新しい手を打たなければならない。単純にやらなければならないことは増えるし、これまでの当たり前を超越する「次の新しい一手ってなんだろう?」って壁にぶち当たったときに、それらをどう解決するのか?って、すごくデカいテーマだよね。
企業が意識変革をするには、膨大にやらなければならないことがあるけど、企業の内側だけでは解決できない。そういう人材がいない。そこで、どこまでスパイスボックスみたいな会社が向き合えるのか?そして、デジタルエージェンシーであることが、いろんな意味で拡大していく時代というか、右肩あがりではなくなってしまった節目にあるクライアントに、デジタルエージェンシーたるスパイスボックスだからこそ役に立てる業務領域やソリューションがあるというのは非常に意味が深いと思う。
山田 モノが売れるか売れないかはクライアントや商品そのものの責任で、その手前の広告領域までがエージェンシーの仕事です・・・という考え方が、良くも悪くも切り分けとしてあったと思いますが、そっちにまで踏み込んでいってクライアントのビジネスをよりよく回していく。すなわちクライアントの売り上げを向上させることにも貢献していくということが、“理想のエージェンシー像”ではなく、“リアルに求められているエージェンシー”である現実は、正直この業界全体にとってヘビーな課題だと思います。旧来の仕事のやり方では、クライアントからお金をもらえないってことでもありますからね。広告プランニングとビジネスプランニングとではやはり使う頭も筋肉も異なってくるので、両方の視点や知識を持てる人材の育成に我々も注力しています。
福田 それは、確かにヘビーな変化だよね。僕も最初はマス広告で育っているので、自分たちがブランディングを担当して、ブランドに寄与するような広告を作ったとしても、そんなに短期間ではブランディングを目的にした広告が効くわけではないので、「こういうブランディングは一年やって二年目に花が咲くものなんです」というプレゼンをすることがかつては多かったけど、今のこの時代のクライアント事情においては「一年待ったら花が咲くかどうかなんですよね」って言っている瞬間に会社がつぶれているかもしれない。
山田 クライアントが「広告」に期待する機能や役割が時代とともに多様化していることは当然ながら、クライアントの経済状況の変化に合わせた「広告代理業」に求められる進化というか深化の必要性をヒシヒシと感じますよね。
福田 そうそう、その企業の状況が右肩上がりかどうか?によって、僕らの業務内容も大きく変わってくるよね。不景気にあっても右肩上がりの業種はあるから、そういう業種にとっては、一年かけても自分たちのブランド価値を上げていくことは、その先の10年を考えると大きな意味を持つわけだしね。その会社がどういう会社でどんな商品を扱っているか?ということを理解していくと同時に、どんなスピード感で何を達成すべきか?を正しく共有したうえで、期待されるエージェンシーとしてアウトプットを出し分けていかなければならないだろうね。
企業の新しい価値を
企業の立場とスピード感で生み出せる存在が望まれている。
山田 旧来のエージェンシーの仕事のスタイルとして、クライアントでの打ち合わせをひとしきり終えると、「一度預かって社内でスタッフとミーティングして次回ご提案させていただきます」という“預かり型”スタイルが当たり前でしたが、いまやそれが通用しないというか、そんなスピード感ではクライアントにまったく追いつけないということをエージェンシーのひとりひとりが自覚すること。まずはこれができないと、そのエージェンシーはこの変化に取り残されていくと思います。クライアントの担当者がGoogleアナリティクスと日々にらめっこしている光景がまったく珍しいことではない今、「じゃあ、次回の提案は来週ぐらいでどうですか?」ってエージェンシーに言われたら、「え?このまま1週間なにも手を打てないの?だったら自分たちで考えて自分たちでやります。」ってことになっちゃいますよね。体力のある企業が自社内にWeb領域のプロデューサーやデザイナー、エンジニアを抱える動きが増えているのも、そういうスピード感が企業のマーケティング活動において一般化している表れだと思います。
福田 そういう状況下では、そもそもその体制やニーズに応える仕組みのあり方から設計していかないといけない、ということもあるよね。そのスピード感とディテールに応えるには、単純にエージェンシー内で誰を担当につければいいのか、という問題ではもはやないかもしれない。その専門的解決を、求められるスピード感と精度とコスト感でクリアできる外部フォーメーションをどう組み立てるのか。日頃から、そうしたリソースネットワークをどうもっているのか。いざ発動ってなったときに、すぐ動ける流れをどうつくっておくのか。そうした業務設計能力も重要。
山田 「事件は現場で起きてるんだ!」ではないですが(笑)、今すぐにでも解決したい課題を抱えているクライアントにその場で真剣に向き合い、その場で小難しい議論にも答えを出し、「では、今日の午後からこうしましょうか」という対応ができるプロデュースワークが理想ですよね。それができるということは、Webのもろもろの知識やプランニング力はもちろん、クライアントのビジネス視点で瞬発的な判断ができる力を有していることになるので、業界でもまだまだ数少ないかなり価値の高い人材だと思います。その価値をクライアントに評価していただき、「ビジネスパートナーとしてあなたと毎日仕事がしたい」と言ってもらえる関係を築くことを目指したいですね。言うなれば、これまでも広告の世界で一流のクリエイターが指名でお仕事をいただいていたように。
福田 これまでWebの世界ではどちらかというと専門性が追求されてきていて、今後もそれはそれで永遠と続いていくのだと思うけれど、どれだけ密に得意先と向き合えて、どれだけ深く課題の全体像を把握できて、どれだけ広くニーズに応えられるのか?というフォーメーションの重要性も、時代的な流れによって強まっているよね。
山田 まさにその時代の流れに合わせて、スパイスボックスでも今年の頭に大きな体制変更を行いました。プランニング、テクノロジー、デジタルマーケティングなどのスペシャリティ部隊は残しながら、全社員約80名のうちの約50名をプロデューサーとして1つの組織(インテグレーテッドプロデュース局)に集めるというフォーメーションです。クライアントと接点を持つメンバーを増やすことで、クライアントとの日々のコミュニケーション量を増やし、メディア、制作、キャンペーン、ソーシャルメディア、分析業務などなど、その時に解決すべき課題をフレキシブルに、そしてスピーディーにクリアにしていける体制にシフトすることが狙いです。
福田 確かに、固定的に儲け続けられることが約束されない時代にあって、フレキシブルな対応ができる組織構造っていうのは時代にマッチしていると思う。
山田 これは以前、福田さんがお話しされていたことなのですが、フレキシブルというのは不安定である反面、クライアントと最適な関係を築くために日々、試行錯誤が繰り返されるチャレンジングな状態でもあるんですよね。最初はサイトのデザインをもう少しかっこよくしたい!とか、もう少し効率的な媒体メニューってないのかしら?という話しから始まり、インターフェイスやユーザビリティはどうあるべき?という基本設計の話になり、そもそもどんなユーザーを引っ張ってくるのか?というターゲット論になり、さらには商品設計そのものやROIはどうなのか?などなど、クライアントと議論する視点や解決すべきポイントがどんどんクライアントビジネスの本丸に近づいていく。
福田 うんうん、確かにそんな話をした記憶があるぞ。
山田 そうなんですよ。実は同じような話を1年ぐらい前に既に福田さんとさせていただいたことがあり、予言ってほどではないですが、いよいよ本当にそういう時代に突入したなぁと改めて実感しています。今回お話しさせていただいた変化については、もちろんスパイスボックスの周辺に限ったことではなく、広告業界全体で起きていることだと思います。10年前のWeb広告は、言い方は良くないかもしれませんが、広告宣伝の端っこというか、まずはCMがあって、次にグラフィック広告があって、残り予算でとりあえずサイトを作って、余裕があればバナー広告もやっておくかな、ぐらいのポジションであることもよくありました。それが今ではどうでしょう?デジタルコミュニケーションがプロモーションやコミュニケーション設計のど真ん中にくることは珍しくないですし、もっと広い視点で、企業の価値向上につながるブランド活動や、事業戦略の根幹にかかわる仕事も確実に増えてきていますよね?
福田 ウェブ系コミュニケーションの未来を掘ってきた人々は、自分たちの企画するコミュニケーションが機能する道筋をリアルに考えていったら、自然と映像にもイベントにもPRにもショップにも関わる流れができていった。その意味と流れは大きかったと思う。メディアを縦割りに区別して、これはやるけどこれはやらない、ではなく、必要なら何でもやるっていうスタンスでやってきたことが、結果的に事業そのものと向き合う流れにつながっていったのかもしれない。
山田 スパイスボックスの仕事のトレンドの1つとして、“Webプロモーションとしてやれることはひと通りすべてやり尽くして、その効果が頭打ちになってしまっている”クライアントに対し、Webプロモーションに限定されない新しいスパイスをふりかけることで、その効果を再燃させるというチャレンジがあります。例えば、これまでクライアントが内部で保有していた顧客購買データを共有してもらい、サイト内行動データやアクセス解析データなどと掛け合わせて分析することで、ECサイトの売上を向上させる新たなプロモーションやCRM施策をプランニングしたり、はたまたテレビCMや新聞広告の出稿がWebサイト上での申込件数にどれぐらい影響するのか?を定量的に分析し、次期キャンペーンにおける最適なメディア出稿量配分を提案したりという取り組みです。いずれも今回の話で挙がっていた「次の新しい一手ってなんだろう?」の解決策になり得るものなので、どんどん良い実績を作り、こういう場でも紹介していきたいなぁと考えています。
福田 そうだよね。スパイスボックスならではの攻め口や芸風がどんどん形になっていくと面白いよね。
山田 なるほど、芸風ですね。エージェンシーってある意味、黒子に徹する部分もあるので、なかなか個性を出しにくい業態ではありますが、そんな中にあっても“スパイスボックスのあの芸風が好きなんだよね!”と言ってもらえるファンが増えるよう、これからも芸に磨きをかけていきたいと思います(笑)
福田さん、本日はありがとうございました。