ダイレクトマーケティング課題の救急治療室

通信販売を始めとした、ダイレクトマーケティングの課題解決には、改善のため早急に適切なサポートを必要とします。その現場は、救急救命室さながらです。このコラムでは、今の通販業界の実情や、手遅れにならないためのアドバイスなど、読みながら学べるコンテンツをお届けします。

永瀬晃大朗

[広告改善企画]気になるあの広告を勝手にブラッシュアップ第三弾

以前行わせていただきました大人気企画、「通信販売の広告を勝手にチェックする広告改善企画」の第3弾です。

今回は大手製薬メーカーの新聞15段広告について、4タイプの広告をチェックしていきます。
また、著作権に配慮し、企業などが特定できるような商品名、本文、連絡先等を分からないように実物の広告を加工させていただきました。
その点をご理解ください。

広告チェックのステップについて

くどいようですが、以前からお伝えしている大事なポイントなので振り返りをします。

基本的には、「現状の評価→商材やメディアなど特性の理解→改善点の洗い出し→テストステップを考える」という流れですが、今回は複数のテストが走った場合について、以下のポイントを踏まえて解説します。

・記事や原稿の評価をそれぞれ行う
・現状理解としてのレスポンス部分は推察を含める

その上で、広告全体の現状評価を行って、メディアなどにおける特性分析と改善点の洗い出しをしていきます。

今回はABCDの4つの広告を確認します。つまり、今回のポイントは一つの広告の善し悪しではなく、テスト企画やテストプランとしての考え方、そして次の施策についてです。

まずは実際の広告を確認

今回のベースとなっているのは、大手製薬メーカーにおける「お腹の脂肪に関する機能性表示食品の新聞15段広告」です。

 

現状評価については、細かいスコアが分からないので状況を見た上での評価ではありますが、この広告状況は目標値の70〜80%以上はクリアしていると推察しているので、それを前提として検討していきます。

このような前提をおいた理由として、目標値から大きくかけ離れている場合は、何を伝えるか?どのように伝えるか?というメッセージに振り幅を持って、よりチャレンジングな広告をテストする必要があるからです。

例えば、何を伝えるかにおいては、悩みや機能性に関して様々な言葉のテストを行います。

当然、景品表示法を遵守しながらにはなりますが、一例としては、「数字的な約束」と言われる、機能性のデータの中における「●週間で差がついた」などの情報を強く押し出すということもあります。

そして、伝え方においても、実感された方の体験談をメインにしたり、企業の信頼性を重視し、企業名を大きく打ち出し開発者などが研究背景を語るような方法ったり、新聞というメディアを意識し、新聞の漫画のような漫画をいれることで読んでいただくという方法もあります。

ですが、今回は

・トップコピー
・ビジュアル
・説得コンテンツ

これらがほぼ同様な表現となっていることから、目標値をある程度クリアしていると推察して「大きな表現をテストしているのではなく、細かいポイントをテストしている」と判断しました。

逆に言えば、目標値からかなりかけ離れている場合のテストであれば、少し物足りないというのが経験則ではありますが、私の所感となります。

整理しますと

・訴求点が改善側に向かっていて、ビジュアルのテストポイントも大きくぶれていない
・細やかなテストポイントがメインとなっていて、大きな訴求の振り幅にはなっていない

そのため、現状は満足しているものの、クリアしていればもう少し出稿回数やテストに差が出るので、これまでの5段広告を軸にテストをしているフェーズと受け止められます。

1)広告Aを解説

「こんな方に対してこういう商品がありますよ」という、一番スタンダードで分かりやすいモデルです。

体重計に乗っている男女、運動が続かない・体重が増える・健康になるという悩みの訴求、下にヘルスクレーム。

その後にメカニズムをわかりやすく1〜3のポイントで記載して、12週間から脂肪が減少という形で機能が明示されています。

基本的な説得ストーリーとしては、悩みから改善までの部分をスパンと見せていくスタンダードな方法です。

2)広告Bを解説

第1メッセージが「〇〇を約束します」というベネフィットを軸にしていて「こんな方に!」という形です。

それ以降は、Aにあったメカニズムを省略して商品を出し、縦の軸に対象年齢と朝9時から受付開始という部分を持ってきています。

Aに比べてベネフィットの部分が強いですが、その他は少し弱くなっているように受け止められます。

ビジュアルのリアリティも少し薄く、説得も弱いです。一方でオファーが強くなっているので、金額提示をメインとした案と受け止められます。

3)広告Cを解説

「体重計に乗るのが楽しい!」「『私でもやれる』と自信に!」という部分から、これはポジティブ案という表現になります。

下には、ヘルスクレームや機能性表示食品の話が出てきて、3つのポイントから「差が出ました」につながり、最後にボイスで終了。

どちらかというと共感性の高いメッセージになっていると思います。

Aを軸にすると、Aは比較的スタンダードなメッセージ、Bはどちらかというとオファー協調型、Cは少し共感ポジティブ型という状態になってきます。

4)広告Dを解説

悩みの掘り起こしとメカニズム提示でかなり記事が主体となっており、新聞体裁を強くした案になっています。

これは昔からある案で、毛色としては他とは少し違ってきます。

「こんな方にこういう商品です」というメカニズムだけではなく、それ以前の「健康トラブルが起きる」「放置していると悪くなるリスクがある」という部分を、コラムにして強いメッセージ訴求をしています。

そして、「対策が必要だよね、だからこんな成分が発見されていますよ」「こんな商品ですよ」と落とし込むので、商品の悩み部分においての事前情報をかなり押していく案です。

この方法は、新聞15段広告という体裁や歴史においてかなりスタンダードな構成であり、現在でもこのスタイル一本の会社はとても多いと思われます。

そのため、AとDは別軸のテストプランと受け止めた方が良いでしょう。

15段にはこのようなスタイルもあり得ます。しかし、5段広告のときにはできなかったので、Aから派生して別ベクトルとして出てきたのがDです。

メディアの特性について

新聞広告の15段には、文章量をかなり多く記載できるメリットがあります。

また、新聞を丁寧に読む方にとっては、情報に関して“読む”という行為に違和感や弊害がないため、文章量が多く、記事と誤認されるような記事体テイストはスタンダードだったと思います。

一方で、新聞離れという表現もありますが、インターネットでも読めるコンテンツが増えていることで、新聞広告において緊急性があるもの以外は読み飛ばされる傾向からなのか、近年このスタイルのスコアは少しずつ下がっているのも事実です。

これはオフライン全般のスコアが下がっていることが背景かどうかは分かりませんが、ここまで文章量が多いものは徐々に減ってきています。

もう一つの背景として、広告の法令整備が進み、昔のようにかなり強めのメッセージが言えなくなっていることもあります。

その上で、大手企業は安定性が高いことを良しとするため、この広告は主流の一つでもあります。

理由としては

・新聞という体裁を守れること
・スコアが少し下がっても安定性があること
・悩みや解決だけでなく煽りのコンテンツを足せること

実は3つ目がポイントで、純広告の場合はシンプルな分かりやすい悩みと解決方法だけでなく、コラムとして前段に健康リスクや健康トラブルといった、PASONAにおけるAgitetion(アジテーション:煽り・共感)の役割コンテンツを足せるからです。5大紙と呼ばれる新聞社の考査に通る形でAgitetionを強く打ち出せることがメリットになります。

この部分が消費者側の意識という形で構築されて、市場がしっかりと作れる点においては、Dは一つの役割を持っていると言えるでしょう。

もし、大手の中でABCばかりやっている企業があれば、Dを一案作ることをおすすめします。

その理由は、先ほども言ったAgitetionによって市場がしっかり作れることはもちろん、この部分が育成されると別のターゲット層や、被っていたとしても広告だけでは買わない層の獲得につながります。

つまり、A→D→A→Dという形で出稿することで、よりレスポンスが安定するケースがあるからです。

市場によっては少しバラつきますが、サプリメント系はそのような傾向が強くなっています。

そのため、新聞15段は昔からDのスタイルが優秀と言われていた背景があります。

その上で、最近ABCのような、大半を純広告が占めていたり、上半分がインパクトスペースや広告スペースだったりする記事がかなり増えてきました。

要因は3つあります。

・新聞離れを含め記事を読まないことからインパクト勝負になっている
・機能性表示食品という形で一定程度の機能を言える大手メーカーのサプリメントが増えた
・オファーが下がってきた

このことから、5段のシンプルなメッセージでも良いのですが、15段でよりインパクトを出しながら見せています。

かつ、15段の方が枠の購入に関しても買いやすいという点もあり、テストのやり易さといった効率性なども踏まえたうえで、15段でテストをしていると思われます。

加えて新聞社側の都合として、5段は記事が上部と上手くマッチしないと取れませんが、15段は記事と関係なく出稿できるので、こちらは5段よりは安定性が高くなります。

そのため、先ほどDタイプは記事の安定性と言いましたが、15段においてこのような広告スタイルにしても、全体的に広告自体の安定性は高まってくるとも言えます。

これが新聞スタイルにおける記事体と純広告の2つのスタイルです。

その中において、Aくらいで良いのか、より説得が要るのか、そのバランスがこのテストにおいて考えるべきポイントになってきます。

テストを評価する

これまでお伝えした観点から、このABCのテストはどのように評価すべきでしょう。

現状、かなりバラついたテストをやりすぎていると思われます。AとDを対比すると、今後はA→D→A→Dでと繰り返すことで可能性があることを先ほど指摘しましたが、純広告スタイルと記事スタイルはハイブリッドで育成できるため、Dについては問題ありません。

Aがかなり純広告的であるため、見た目に関する悩みなのか、どれだけ痩せるかのハッピースタイルが良いのかというビジュアルの違いを正確にテストすることが重要です。

つまり、AとCにおいて、Cはビジュアルがとしてもう少しウエストが痩せていくテストをすべきだったと思います。

今回の広告は、お腹が出ている悩みが全部のビジュアルになっているので、テストとしては同じゾーンを攻めていて、かなり振り幅が少なくなっています。

その中で、Bはどちらかというとオファーメイン、Cはネガティブなビジュアルにポジティブなメッセージを出して少しちぐはぐな印象です。

そのため、Cをもう少しポジティブなメッセージに寄せた方が良かったのではないかと思います。

テストステップを考える

では、本来あるべきテストについて説明したいと思います。
以前の信頼マーケティングについてお伝えする際に、私が考えている説得のコンテンツについて述べさせていただきました。

今回はその考え方を引用していきます。

 

 

課題から見せるべきか?改善した後の幸福イメージを見せるべきか?共感性を上げるべきか?信頼性を上げるべきか?という情報の切り出し方です。

この4つの掛け合わせを考えていくことがポイントになります。

現状として、Aは悩みの課題軸からハッピーな幸福軸に分かりやすく向かっていて、流れとしてはよくあるスタイルです。

Bはトップキャッチとしてこうなると見せた上で、「こんな方に」というメッセージが出てくるので、何ができるかに関しては強くなっています。

その反面、中段のメッセージはボヤけた印象です。

この場合は「こんな解決する商品が出ました」という見せ方がテスト方針としては分かりやすかったと思います。

また、左側の「9時から受付開始」はインパクトが弱いです。理由はシンプルで、70代や80代の高齢者は9時では遅いからです。

過去のテストで6時から受付開始をして電話が鳴る率が上がったケースがあるため、9時からを堂々と謳うには少し弱いと受け止めています。

この部分だけを切り出すなら、出稿日だけでも構わないので、時間を早めたコールセンターを用意すると良いでしょう。

受付時間を早くした場合と9時からの場合をテストすることで、コール率のチェックが安定します。

つまり、オファーの速度です。「540円で安いですよ、今すぐ買ってください」という方に向けるなら、朝ご飯前後の時間の5時、6時、7時の受付開始でテストをする方が、むしろこの広告としては良さを発揮すると思われます。

Cは先ほども言いましたが、ビジュアルが滑っている可能性が高いです。ただ、後半にボイスが入っているので、相殺されると思います。

これらの部分から、ABCのテストは少しコンセプトにばらつきが出ていて、やりたいこととやるべきことのバランスが崩れてしまい、テストになっていないポイントで上がってしまっているのではないか、と言えます。

どういうテストであるべきだったか?

それでは、少し分解をしながらどういうテストをやるべきだったのかを説明します。

先にDに関しては問題はありません。スタンダードなスタイルであり、変わりすぎているので、これはこれで成立しています。

Aはトップから商品とオファーが見えているので、男性と女性の上部に「60代70代80代の方へ、受付開始」みたいなコピーを入れて、真ん中に「540円のチャンス」という形で商品を置き、下に説明を落とす形が良いと思います。

つまり、AとBは、共存し得るテストとしてオファーの強さをどこまで強調していくのかをビジュアルとしてテストすべきです。

プラスして、ポジティブとネガティブがあり、それがAとCです。ポジティブ推しが良いのか、ネガティブからポジティブを説明する方がいいのか、そこがポイントです。

そのため、Aのトップに出す商品がなく、ちゃんと説得しているストーリーをCで作るべきです。

もしくは、Cのストーリーで最後に商品とオファーが出てくるスタイルとしてAを作り直してから、AとCをテストするとよいでしょう。

つまり、Aを軸にオファー協調型と商品を出さない丁寧説得型を作ったうえで、悩みなのかポジティブなのか?イラストにすべきか?という部分を細かくテストした方が、中長期的な財産としてのテストになると思われます。

複合的にいろいろやりすぎて何をテストすべきなのか、どれが一番良いのかなどが分からなくなっているのではないか?と言うのが、このテストを見た上での私の見解です。

このように、それぞれの原稿の良し悪しを評価して、ここが良いのにここは良くないから、もしかすると下がるかも?こうしたら上がるかも?という事を考えながら、テストがちゃんと成立する設計方法を考えるのが私たちの仕事になってくると思います。

必要なテストポイント

先ほどお伝えした説得のコンテンツには、課題から幸せという悩みからベネフィットの縦ラインと、共感性から信頼性という部分のどう説得するかの感情の横ラインが重要であると言いました。

今のポイントは、共感性と信頼性にもうちょっと振り切ったコンテンツが存在し得ないのか?です。これはどういうことかと言いますと、現在は健康診断やお腹というスペック的ワードが大半を占めていることで、悩みの部分の表現が絞られていて、共感の部分が弱くなっているのです。

1)共感コンテンツ

解決策は2つあります。
インパクトを担保するのであれば、アイコンとなるタレントを起用して「こんなふうに悩んでいた私が!」という表現をトップに持ってくる、タレント契約を軸とした共感コンテンツにする方法です。
この広告は大手なのでこのようなアイディアを出しています。もちろん一般の方における体験談という形で体験者が出てくるケースもあり得ます。どちらにしても、誰かの顔が出てくることに価値があります。

もうひとつは、生活の中で困ったシーンを出す共感型のコピーです。

お腹周りが太くなると困るリアルなシーンは、体重計よりも服が着られなくなることです。

よく聞くのは礼服やお気に入りの服が気付けば入らなかったという話です。太ったことやウエストサイズが気になるという表現を、共感性の高い形で表現することが大事と思います。

2)信頼コンテンツ

今回の広告は、どちらかといえばトーン&マナーのように、デザインによって信頼性を作っている状況です。

これはとても良いアプローチと思いますが、大手メーカーであるが故の企業名を軸とした信頼の得方もあると思います。

つまり、もう少し企業ロゴを大きくする、企業を出したコンテンツ作りをするという方法です。また、他の企業でもやっている研究者が出てくることがポイントになってくると思います。

以前、マジワンの行った勉強会などの発信で、今後は企業ブランドの打ち出し方が重要になってくるという話をさせていただいたことがあります。

その部分において考えると、今回の企業には使えるコンテンツが多いと思うので、企業資産の掘り起こしと打ち出しが重要になってくると思います。

数字的約束をトップキャッチのテストに入れるべきかについては検討すべきです。

つまり、「飲み続けて12週間」「12週間で〇〇を助ける」の12週というワードをいかにトップキャッチに混ぜるかというのは、数値的には面白いのでテスト視野に入れるべきであり、信頼コンテンツの見せ方としてはやった方が良いと思います。

まとめ

やはり、テストプランの構築とテスト振り返り、それをしっかり振り返れる状態で設計すべきというのが軸です。

現状レスポンスが不満足で大きく振りたいと考えている場合は、今回のテストでは少し振り幅が不足しているということです。

そのような考え方を丁寧に押さえていくためにも、最初にしっかりと洗い出しをして、どこまで振り幅を振るかを企業の担当者様とクリエイターが制作方針を確認しながら振れ幅を作っていくことが重要だと思います。

今回はテストフローとしてこの4つの広告を見ながら解説を行いました。
テストをするときに参考にしていただければ、執筆する励みになります。

なるべく分かりやすく伝えさせてもらっているつもりですが
分からないことであったり、テストでお困りなことがあれば、
ここからご相談してください。
(お問合せ内容にお知りになりたいことを書いてくださいませ。)

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