ダイレクトマーケティング課題の救急治療室
通信販売を始めとした、ダイレクトマーケティングの課題解決には、改善のため早急に適切なサポートを必要とします。その現場は、救急救命室さながらです。このコラムでは、今の通販業界の実情や、手遅れにならないためのアドバイスなど、読みながら学べるコンテンツをお届けします。
通販企業の踊り場 売上一億円規模からの脱却のために
通信販売をされている事業者は、拡大・成長において多くの「壁」にぶつかるかと思います。
私もダイレクトマーケティングの支援をさせていただくなかで、多くの「壁」を乗り越えるお手伝いをしてきました。
そのなかでも、皆さまにとって味が深いのは、やはり「売上の壁」ではないでしょうか。
思うように伸びない、伸びない原因が分からない、販売方法を知りたいなど、成長の踊り場での悩みは深いものがあります。
今回はそうした、通販企業が直面する課題のひとつ「売上の壁」についてお伝えしていきます。
これを読めば、売上の壁に当たったときの考え方と、その方策が見えてくると思います。
売上における壁とは?
一般論として、企業の経営には壁があると言われます。
これは、売上、人数規模などの事業の規模に関してあるもので、1と3の数字に壁があると言われています。
1000万から3000万、1億、3億、10億、30億という売り上げの壁。人数規模においても同様に、初めて社員を採用するタイミングだけでなく3人目、そして10人、30人と増えていく部分で壁が出てくると言われています。
通信販売などのダイレクトマーケティングにおいても規模において、やはりこの1億の壁の突破がとても厳しく、この壁に苦しんでいる企業も多いと思われます。
そこで、私がこれまでサポートしてきた経験から、脱却するための考え方をお伝えしたいと思います。
標準値を仮定し、立ち位置を理解する
まず、大切な考え方として、現在の売上規模において健全に成長していけるであろうバランスの良い状態がどういった状態か仮説を立て、その場合の対策は何を行うか?と検討することが大切です。
マーケティング業務の支援をしている側としては、このような標準値の仮説を立て、この場合の対策にはどんなアドバイスや施策を行えば改善できるかを第一に考えています。
その上で、今の状態がどのくらい外れているのかを検討して、緊急措置が必要なのか、
事業の根幹から検討すべきなのか、標準に近い状態であれば、小さな改善だけでじっくり伸ばしていけるかといったどの部分の改善をどのくらいするかという、方針を考えることができます。
標準値の考え方の一例
それでは、リピート型の通信販売の企業が1億円の売上だった場合の標準値を考えてみましょう。
※今回は説明用に多少計算を簡単にしておりますがご了承ください。
通信販売において定期顧客の回転数(リピート回数)はかなり開きがあります。先程1と3の壁と言いましたが、やはり3回目くらいに回転数も課題を抱えている企業が多くいらっしゃいます。
そのため、標準値の試算として、回転数を3前後と考えてみましょう。
また、規顧客(広告での獲得数)と既存(リピートしている人数)は
おおよそ1:3程度のバランスと想定します。
商品の単価が、3,000円から5,000円くらいの場合ですと、(平均4,000円で計算)
100,000,000÷4,000÷12 =2,083
ということで、1月でおおよそ2,000個の商品を販売している位となり、
それに先程の1:3の割合にすると新規ユーザーが500、アクティブユーザーが1,500位になるのかなと計算します。
1商品の単価によっても変わりますが、上記のようにざっくりでも基準値を数字として落としこんで考えることが大切です。
標準値のケースにおける対応策について
上記のような標準値をケースとして対策について考えてみましょう。
このケースの場合は、やはり丁寧に「新規顧客の獲得の対策」と「リピート数向上の対策」を同時に考える必要があると言えます。
新規流入を500名から600~700名に増やすために、現在の施策のまま改善を行いCVR(コンバージョンレート)などの改善の行ったり、メディアのポートフォリオを見直し、メディアを広げていくなどが考えられます。
一方で、企業の財務上においては定期の離脱を抑えてリピートの回数を1回でも伸ばすだけで、一気に効率が良くなります。
そうすると新規顧客獲得の広告も出しやすくなります。
ここからは経営者との相談となりますが、企業として体力もあり、時間に猶予がある場合は、まずはCRM(顧客関係管理)を含めたリピート改善の施策から進めることを提案します。
すべての同梱物、メルマガやLINEなどSNSを使ったお客様とのコミュニケーションで、リピート数が1回でも以上増えるような施策がないかを洗い出します。
一方で、経営上速度を求められるケースの場合は、新規顧客の獲得に関しても同時に進める必要があります。
これは、ライディングページなどの制作物から改善するケースやメディアの見直しをするケース、もしくはチャットボットなどを含めたサービス導入をしたりするなど様々な施策があります。
つまり、売り上げを一気に上げるなら新規広告、じっくり進めることができるならCRMからとなります。
さまざまなケースをタイプとしてご紹介
一方で、上記のようなケースだけではありません。
いくつかのケースをタイプ分けして解説していきたいと思います。
1、バランス型タイプ
これは、前述した標準値に近いバランスが良いタイプです。
そのため、対応策としては解説したとおりなのですが、なぜこのタイプが行き詰まってしまうのか?ということを説明したいと思います。
バランス型のポイントは、丁寧に対策を打つポイントを決めていけば良いため、「標準値のケースにおける対応策について」にて
記載した対応策と同じ考え方をすると良いです。
ですので、行き詰まってしまうことの課題点は、社内での決定プロセスがしっかり固まっていなかったりすることで、
「ここを対策しよう」といった決定ができないケースが多いです。
自社のバランスが良いという部分も理解が浅いので、不安があるからかもしれません。
まずは上記のように標準値と考えて大きくバランスが悪い訳では無いことが分かれば、
経営方針を決めて一つずつ対策を打っていくことが必要です。
そのため、私の経験上では、バランス型でとどまっているケースは少ないと言えます。
2、過去の栄光タイプ
新規がかなり少なく、既存の顧客リストで事業が回っているケースです。
こういったケースは過去にヒット商品があったが、様々な事業でその商品が新規広告での獲得がうまく行かなくなってしまったことが多いため、失礼ながら“過去の栄光タイプ”と名付けさせていただきました。
新規広告での獲得が100件以下であったり、リピートの顧客数が多くて新規獲得に手を打てていないケースとなりますが、一番のリスクは、お客様の引っ越しや高齢化などの問題で商品を継続できず、徐々にでも微減していってしまうことです。
このようなケースの対応策にはどのようなものがあるのでしょうか。
フロント商品の獲得できる体制づくり
「過去の栄光タイプ」においては、フロント商品があって、少ないとしても新規顧客の獲得がしっかりできている状態であれば良いのですが、フロント商品といえるものが全く無いタイプがあります。また、商材があったとしても社員の退職などにより、広告を行うノウハウが整ってないケースもあります。
両方が重なっているケースはかなり深刻で、フロント商品を作るために新規商品を作るところから始めるケースや、過去の商品をリブランディングやリニューアルして、現在のニーズに合わせた商品設計から見直す必要のあるケースがほとんどと言えます。
そして、その間に広告セクションの教育なども行い、広告チームを育てていく必要もあります。
時間がかかると同時に、これまでの予算にない費用がかかってきてしまうので、経営状況としてもそういった費用が捻出できるのかという点など、事前にしっかりとした話し合いをしないといけません。
社内のフルフィルメントから見直す
それ以外のケースとして、以前にヒット商品があったというケースでは、フルフィルメントと呼ばれるコールセンターや配送などのセクションを社員で全てを請負すぎており、社内の組織の人員バランスが悪くなっているケースなどもあります。
このような場合においては、配置の転換を検討するケースや、事業部そのものの見直しから入るケースも存在します。
最近では、フルフィルメントのアウトソーシングサービスもある状況ですし。
ですから、そういった事業部を社外向けにサービス化していくなどの見直しも十分にありえると思います。
多くのケースが、社内の組織体制の見直し、商品開発を含めたフロント商品の見直しなど、かなり根幹の対策が必要となってきてしまうので、このタイプになっているなと思ったときは、いち早く対策を検討されたほうが良いと思います。
3、刈り取り放置タイプ
新規顧客の獲得に関してはかなり順調ではあるが、リピートがよくないというケースです。
いくつかのケースはありますが、刈り取りという感覚が強く、新規広告に意識が行き過ぎているので「刈り取り放置タイプ」と名付けさせていただきました。
数値的には定期コースの加入後、リピートの3回目くらいではほとんどのお客さまが離脱しているということが多いです。
これには以下のようなタイプが考えられます。
・商品の使用感が悪いなど満足度が低く離脱しているケース
・商品の同梱物などが整っておらず、使い方などが理解されず離脱を招いているケース
・そもそも今販売している商品がリピートに向いてないケース
・新規広告で効果を煽りすぎて期待外れと思われてしまうケース
商品が良くない場合やリピートに向いていないケースなどは、商品の見直しだけでなく販路の見直しを行うケースもありますが、離脱を放置し過ぎている場合は、新規だけを経営課題として重要視しすぎていることが多いので課題点を整理することがとても重要となります。
刈り取り放置タイプの傾向と対策
対策としては大きく3つ存在します。
1つ目 CRMをしっかりと改善する
全く同梱物が整っていないケースに該当しますが、やはり化粧品などでも適正に使っていただき効果を理解していただくなどお客さまの商品の理解度を上げることで、リピートが改善することはよくあります。
そのため、まずは同梱物やフォローメールなどの改善を考えます。
2つ目 販路やオファーの見直しをする
商品がリピート商品に向いていなかったりするケースです。
リピートモデルに適していないケースは、販路を店頭への卸や、ECモールなどに出店することを検討します。そのため1回の購入でもしっかりと利益が出るような初回のオファーの見直しなども重要になるので、定期コースよりはセット販売メニューなどを作成することなります。
3つ目 商品および広告の見直し
商品の満足度がそもそも悪いケースは、残念ながら商品を見直さないとモールでも満足していない方の口コミがついてしまいますので、商品リニューアルからとなります。
広告の見直しも広告の獲得効率にかなりの影響を及ぼしてしまうので、根底からの見直しとなってしまいます。
このタイプにおいては、対応策の幅がかなり広いので、状況の見極めに時間を使う必要があります。
商品がそもそも良くないのか広告が良くないのかという見極めにおいては、口コミの情報だけでなくコールセンターへの解約状況なども判断する必要があります。
そのため、普段は広告のコンサルティングをしている私でもコールセンターの状況をコールセンターの責任者の方と面談を行い、しっかり分析するケースも出てきます。
その上でしっかりと状況を把握しないと対応策を見誤ってしまう可能性が増えてしまいます。
やはり、壁を打ち破っていくためには、現在の状況をしっかりと知る必要があると言えます。
今回の記事のまとめ
今回の記事では、「通販企業の踊り場 売上一億円規模からの脱却のために」というテーマをもとに、一億円突破という壁にぶつかった時の対策について4つのタイプをもとに解説させていただきました。
もちろん、過去の栄光タイプでも刈り取り放置タイプでも、バランス型に近いケースは、比較的改善しやすいといえます。
長く対応策を打てずに放置してしまうと、極端に偏ってしまい、改善点としても社内組織体制や商品開発からといった根幹からの見直しが必要になってしまいます。
大きな壁にぶつかってしまったと思ったら、自分たちがどの位置にいるのか?ということをしっかりと考えていただだけると、そこから必ず改善策が見つかってくると思います。どうしてもわからないといったときに、取引先などを含め事例を見てきている企業やチームに相談をして、現状を分析してもらうことも良いと思います。
脱却することは、多くの方が悩んでいることであり容易ではありませんが、この記事が気づきとなり多くの企業の手助けになればと思います。